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『意志と表象としての世界』 – 難解な名著を初心者にも分かりやすく要約!(ショーペンハウアーの代表的著作)

アルトゥール・ショーペンハウアーの代表的著作『意志と表象としての世界』 - 難解な名著を初心者にも分かりやすく徹底要約!

ショーペンハウアー。
ドイツを代表する哲学者です。

一度は挑戦してみたい。
そう思いつつも、

  • 悲観主義っぽくて読むのがしんどそう。
  • 暗そう。
  • 本が分厚すぎる。

そんな理由から、手を出せなかった方も多いのではないでしょうか。

ですが、そんなことで手を出さなかったのだとしたらもったいない。
ショーペンハウアー哲学のエッセンスを理解すれば、より活力的な生き方を模索するヒントを得ることができることでしょう。

ブログ管理人:大山俊輔

本業は会社経営者です。哲学は自分の仕事、人生に役立つようにつまみ食いする派。

この記事は、ドイツの哲学者アルトゥール・ショーペンハウアーの代表的著作ともいえる『意志と表象としての世界』について解説しています。難解で手を出しにくいと言われる本著ですが、間違いなく、一度は読んでおきたい名著です。かつては、東洋哲学の影響の強さ、ペシミストとしてのイメージから哲学界からも異端扱いされてきたショーペンハウアー。しかし、昨今の量子力学などの発達から彼の考察の正しさが日々確認されています。

本書に手を出そうと思っている方が、事前に、概要を理解できるよう、そのエッセンスを分かりやすく要約しました。

最初に – ショーペンハウアーってどんな人?

ショーペンハウアーと犬ショーペンハウアーと飼い犬のアートマン(サンスクリット語で「真我」という意味)

ショーペンハウアーは、1788年にドイツで生まれ、1860年に没した哲学者です。

存在論的ペシミストとして知られています。彼の哲学は、人生が苦しみと不満で満ちていることを強調し、人生の意味について懐疑的でした。ショーペンハウアーは、イマヌエル・カント、フリードリヒ・ニーチェ、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインなどの哲学者に大きな影響を与えました。

彼の主たる思索の対処は、「意志と表象」に関するもので、今回紹介する『意志と表象としての世界』にその考察が詳しく書かれています。

ショーペンハウアーはまた、人生についても論じ、人間の苦悩と不幸について深く考えました。彼によれば、人生は常に苦しみの中にあり、人間は不幸に苦しんでいる存在であると考えました。しかし、彼はまた、芸術や哲学によってこの苦しみから解放されることができると信じていました。

ショーペンハウアーの略歴

以前紹介した「ショーペンハウアー(ショーペンハウエル)ってどんな人?その生涯、名言、代表書籍をわかりやすく解説!」の記事で、ショーペンハウアーの生い立ちから晩年まで詳しく解説しています。

下記はショーペンハウアーの略歴です。

ショーペンハウアーの略歴
1788年(0歳)裕福な商人の父と名門出身の母の元、ダンツィヒに誕生。

1793年(5歳)一家でハンブルクへ移住。

1797年(9歳)フランス語習得のため、ルアーブルの貿易商の家に2年間預けられる。

1799年(11歳)ハンブルクへ戻り、商人育成のための私塾に進学。翌年家族と3カ月のプラハ旅行へ。

1803年(15歳)父親の仕事を兼ねて家族と約1年間、ヨーロッパ周遊旅行へ。

1806年(18歳)父親の死と仕事に対する精神的苦痛からイタリアへ渡る。

1807年(19歳)学問の道に進むことを決意。ギムナジウムを転々とする。

1809年(21歳)ゲッティンゲン大学に入学。プラトンやカント、インド哲学について学ぶ。

1811年(23歳)ベルリン大学へ転学。本格的に哲学の研究を始める。

1813年(25歳)博士学位論文をイェーナ大学に提出。ゲーテに才能を評価される。

1815年(27歳)ゲーテの依頼で色彩論『視覚と色彩について』を執筆。翌年刊行。

1818年(30歳)『意志と表象としての世界』を執筆後イタリア旅行へ。

1820年(32歳)ベルリン大学で教職に就くも、当時圧倒的人気だったヘーゲルの講義に負け辞職

1822年(34歳)スイスを経て再びイタリア旅行へ。

1823年(35歳)帰国後、ミュンヘンへ赴き病に罹り、右耳の聴力を失う。翌年治療のため各地を転々とする。

1825年(37歳)再びベルリン大学で講義を行うも人気は出ない。『意志と表象としての世界』は徐々に評価を集める

1831年(43歳)ベルリンから地方に移住。

1833年(45歳)フランクフルトに定住し隠遁生活へ。

1841年(53歳)『倫理学の二つの根本問題』を刊行。

1843年(55歳)『意志と表象としての世界』の続編が完成

1845年(57歳)『余禄と補遺』の執筆開始。

1850年(62歳)『余禄と補遺』の完成。翌年刊行。

1858年(70歳)ベルリン王立アカデミーから会員の推薦をされるも拒否。

1860年(72歳)肺炎により死去。

ブログ管理人:大山俊輔

ショーペンハウアーの略歴をストーリー形式でまとめています。ご参照ください。
ショーペンハウアー(ショーペンハウエル)ってどんな人?その生涯、名言、代表書籍をわかりやすく解説! ショーペンハウアー(ショーペンハウエル)の思想、生涯、名言、代表書籍をわかりやすく簡単に解説!(この人はガチの天才)

ショーペンハウアー哲学の核心

ショーペンハウアーの哲学の核心は、意志と表象に関する考え方です。彼によれば、私たちの経験世界は、外部世界に対する私たちの認識の結果であり、この認識は私たちの知覚、思考、言葉によって構成されます

しかし、この認識は現実について真実を伝えるものではありません

現実は、私たちが把握することのできない、深遠な力、つまり「意志」に支配されています。この意志は、私たちが望むものや欲するもの、そして苦しみや不安を引き起こすものです。

ショーペンハウアーの思想

ショーペンハウアーによれば、人間は自分自身を不幸にする傾向があります。それは、私たちが意志に支配されているためであり、意志は常に不満足を生むからです。

また、ショーペンハウアーは、人生が痛みや苦しみで満ちていることを指摘し、個人の自殺を容認する立場を取りました。彼は、人生に意味がないと考え、人々が自分たちの苦しみを取り除くために、自分たちの意志を克服し、自己否定する必要があると主張しました。

ショーペンハウアーの関心事

ショーペンハウアーは、自然や動物に対する深い関心を持ち、彼の哲学は、自然哲学、生物学、神秘主義と深く関係していました。彼はまた、東洋哲学、特に仏教やヒンドゥー教の影響を受け、個人的な修行と精神性についても多くの思考を示しました。

彼の晩年の友であったプードル犬の名前はアートマン。
サンスクリット語で「真我」を意味します。このあたりも、他の西欧の哲学者に対してショーペンハウアーが異端な存在であったことが感じ取れます。

現代思想への影響

ショーペンハウアーの哲学は、20 世紀の現代思想に影響を与えました。

彼のペシミスティックな視点と、人生の意味を問う姿勢は、宗教的な懐疑論、不条理主義、ニヒリズム、そして存在主義に繋がりました。

ショーペンハウアーは、哲学以外にも、音楽や文学などの芸術に興味を持ち、それらを自分の哲学に反映させました。彼は、音楽が私たちの感情と意志を表現する唯一の方法であると信じ、ベートーヴェンの音楽を深く愛していました。

総じて、ショーペンハウアーは、19 世紀の哲学者の中でも特異な存在であり、人生について懐疑的な見方を持ち、苦しみについての深い洞察力を持っていました。

彼の哲学は、現代の思想に大きな影響を与え、人生の意味についての探求や、自分自身と向き合うことに興味を持つ人々にとって、今でも有益なものとなっています。

ショーペンハウアーは当時の哲学界ではどんな位置づけになっていたか

以前のエントリでも紹介したように、ショーペンハウアーは「人生は苦悩の連続である」と断言しました。それまでのヨーロッパの哲学者(カントやヘーゲルなど)は人間の「理性」を賛美しましたが、ショーペンハウアーは「理性」よりも、生きることへの本能的な、盲目的な「意志」のほうが強いと言い切っています。

生きることへの意志は盲目的な故に満たされることがない。他者との関わり合いは意志と意志とのぶつかり合いになるため、争いが起こる。その結果、「人生は苦悩の連続であり、人生は最悪である」とショーペンハウアーは断じます。ペシミスティック(悲観的)であり、ユニークです。ここが、ショーペンハウアーをペシミスト(悲観論者)として誤解を与えてしまう大きな理由でもあります。

しかしショーペンハウアーは「人生は最悪」と断言しつつ「そんな最悪の人生でも、なるべく快適に心おだやかな生き方を目指そうよ」とも言ってくれます。こうした経緯から、ショーペンハウアーは「生の哲学」の始祖とも呼ばれています。その思想は、ニーチェ、ディルタイ、ベルクソンなどへ受け継がれます。また、デューイなどプラグマティズムへの影響も大きいと言われています。

上記のような経緯から、ショーペンハウアーは、19 世紀初頭に現れたドイツ観念論哲学の一派であるヘーゲル派とは対立しました。彼は、ヘーゲルが唱える絶対知や世界霊などの観念的な概念を批判し、現実世界の苦しみや意志の本質を探求することを主眼に置いた哲学を展開しました。

しかし、当時のドイツ哲学界では、ショーペンハウアーの思想はあまり評価されず、ほとんど注目されず評価されはじめたのは死直前のことでした。

ショーペンハウアーの影響

ニーチェはショーペンハウアーから多大な影響を受けた

ショーペンハウアーの哲学は、彼の死後、次第に注目を集めるようになりました。

哲学者に与えた影響

特に、20 世紀の哲学や文化に大きな影響を与え、フリードリヒ・ニーチェやマルティン・ハイデッガー、アルベルト・カミュなどの思想家たちに影響を与えました。また、彼の哲学は、精神分析学者ジークムント・フロイトにも影響を与え、フロイトは『快楽原則』でショーペンハウアーの意志論を批判しながらも、その影響を認めています。

現在では、ショーペンハウアーの哲学は、個人主義や実存主義、ニヒリズム、ペシミズム、不条理主義、東洋哲学、そして現代の禅などとも関連づけられ、多くの人々によって高く評価されています。彼のペシミスティックな見方や、人生の意味についての問いかけは、現代社会に生きる人々にも共感を呼び、興味を持たれています。

ショーペンハウアーは、彼自身の哲学的見解に基づいて、自由意志の否定や無私の美徳、苦しみの原因や克服方法などについて著作を残しました。彼の主著『意志と表象としての世界』は、彼の思想を最も詳細に示したものであり、人生の意味についての深い探求を描いています。

彼は、人生の意味を見出すためには、自分自身と向き合い、自分自身の内面を深く知ることが必要であると考えました。彼の哲学は、人間の苦しみや無常性についての深い洞察を持っており、それが多くの人々にとっての心の支えとなっています。

科学者に与えた影響

シュレディンガーはショーペンハウアーの著作を好んで読んだと言われている

影響を与えたのは後世の哲学者のみではありません。
実は多くの科学者へも影響を与えています。

というのも、ショーペンハウアーの世界観は量子論そのものです。

20世紀に勃興した量子論に大きな痕跡を残した、エルヴィン・シュレーディンガー、そして、アインシュタインもショーペンハウアーの著書を好みました。
量子論は、ヴェーダはじめ古代哲学の時代まことしやかに言われていたことを科学的に実証したとも言えます。

ショーペンハウアー自身、東洋哲学に傾倒していましたので、当然の帰結なのかもしれませんね。

ショーペンハウアーの 『意志と表象としての世界』の第1巻の要約

『意志と表象としての世界』(原題:Die Welt als Wille und Vorstellung)は、19 世紀に出版されました。本書は、現象(表象)として現れる世界と、その背後にある根源的な現実(意志)を扱ったものです。日本語訳は、上記西尾幹二さんのものが最も有名です。

本書の第 1 巻では、ショーペンハウアーは世界を把握するための理性の限界を考察しながら、意志と表象の概念を提示しています。

以下、本書の第 1 巻の要約をこれから本著を手に取ろうと思っている方向けに紹介します。

第 1 章 「知覚の二重性」

ショーペンハウアーは、人間が世界を知覚するとき、それを2 つの異なる方法で理解していると主張します。

それは、直接的に現れる外界の世界(表象)と、それに対応する内的な知覚(意志)です。彼によれば、現象としての世界は、我々が経験する外界に過ぎず、それ自体は真の現実ではありません

真の現実は、表象の背後にある意志だと彼は考えます。

第 2 章 「意志の世界」

ショーペンハウアーによれば、世界には物体や人間などの有限な存在がありますが、それらは全て意志によって動かされています。彼によれば、意志とは、人間が自由意志として知っているものとは異なり、自己保存や繁殖のために働く根源的な力です。

また、意志は時間や空間の制約を受けず、永遠に存在すると主張します。

第 3 章 「知覚と理性」

ショーペンハウアーによれば、人間の理性は、物事を抽象的な概念にまとめ、それらを言語化することができます。しかし、理性は表象の背後にある意志を直接的に把握することはできません

彼は、意志は直接感覚的な経験によってのみ理解することができると主張します。

第 4 章 「理性の限界」

ショーペンハウアーは、理性は世界を完全に理解することはできず、それは彼が「知の境界」と呼ぶものによるところが大きいと考えます。彼によれば、知の境界は時間や空間、因果律、そして個体的な存在の境界です。

それらを越えた真の現実を知ることはできないと主張します。

第 5 章 「知覚の方法」

ショーペンハウアーは、人間が世界を知覚する方法について、知覚器官による直接的な知覚と、内的な知覚を通じた間接的な知覚の 2 つに分けます。

彼は、直接的な知覚は表象を生み出し、間接的な知覚は意志を生み出すと考えます。彼はまた、内的な知覚は夢や幻覚、直感的な洞察力といった形で現れることもあると主張します。

第 6 章 「言語の役割」

ショーペンハウアーは、言語は理性による表象のための有用な手段である一方、真の現実である意志を理解するためには不十分であると主張します。彼によれば、言語はあくまで抽象的な概念を伝えることができるため、具体的な経験を直接的に伝えることはできないと考えます。

第 7 章 「道徳的意志」

ショーペンハウアーは、意志が人間の行動を支配すると同時に、道徳的な判断を下すこともできると考えます。彼によれば、道徳的な行為は、自己保存の欲求を越えた無私の行為であり、それは意志が直接的に表れるものではなく、理性によって規制されるべきであると主張します。

以上が『意志と表象としての世界』第 1 巻の要約です。

本書は、ショーペンハウアーの独自の哲学的な考え方が詳しく説明されており、知覚、理性、意志といった概念についての彼の理解が明確に示されています。この本を読むことで、哲学的思考のスキルを向上させ、現実を深く理解することができるかもしれません。

また、ショーペンハウアーは、本書において、哲学における重要な概念や問題を扱っているため、哲学を専攻する学生だけでなく、興味を持つ人は誰でも読む価値があります。

とはいえ、彼の哲学は他の哲学者とは異なり、暗く、悲観的で、退廃的な側面を持つため、読者の心理的な準備が必要かもしれません。

ショーペンハウアーは、現代の人々が「意志」という概念を理解し、自分たちの生き方に活かすことが重要であると考えていました。彼の哲学は、現代の人々が直面している問題や課題に対する目下の解決策を提供するものではありませんが、彼の哲学的な視点を知ることで、より深く自分自身や世界を理解し根源的な解決のとっかかりとすることができるでしょう。

『意志と表象としての世界』第 1巻 – その他の考察

『意志と表象としての世界』第 1巻 - その他の考察

『意志と表象としての世界』第 1巻は、哲学に興味のある人、哲学を学びたい人にとって、興味深く読める本です。とはいえ、内容が深いため、読み進める上で時間がかかることもあるかもしれません。それでも、ショーペンハウアーの哲学的な考え方に触れることで、現代の世界をより深く理解し、自分自身の生き方にも新たな視点を与えることができるかもしれません。

『意志と表象としての世界』第 1巻は、哲学の基本的な問題について扱っていますが、ショーペンハウアーの哲学は独自の立場から展開されています

彼は、哲学において、主観と客観、自由と必然、現象と本質といった問題を重要視しています。

第 1 巻では、まず、世界を知覚する方法について考察し、現象と本質の関係を論じています。

彼は、現象としての世界は表象にすぎず、それを超えた本質的な世界が存在すると主張しています。そして、表象された現象を通して、本質的な世界を知ることができると考えています。

また、ショーペンハウアーは、人間の知覚や行動の背後にある「意志」という力を重視しています。彼は、この意志が人間の行動や欲求、苦しみの原因となっていると考えています。そして、人間はこの意志に支配されているため、真の自由を得るためには、この意志から解放されることが必要であると主張しています。

ブログ管理人:大山俊輔

以前紹介した、エックハルト・トールはその著書『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』の中で、意志とほぼ同義かつ人間独特の意志をまとめて「エゴ」という言葉を使って解説しています。彼は、明確に「思考」と「意識」は異なるもので、多くの人はエゴに基づいた思考に振り回されて、日々過去の後悔、未来への恐れで身動きできなくなり「今」をおろそかにしていると指摘しています。
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さらに、ショーペンハウアーは、芸術や美を通して、意志から解放されることができると考えています。彼は、芸術を「快楽の源泉」と表現し、芸術を通じて人々が自分自身や世界と調和することができると主張しています。

以上のように、『意志と表象としての世界』第 1 巻では、世界を知覚する方法、現象と本質の関係、意志の概念、自由と必然、芸術と美といった問題が取り上げられています。ショーペンハウアーの哲学は深く、独自の立場から展開されていますが、その中には現代の人々が直面している問題について考えるヒントが隠されているかもしれません。

ショーペンハウアーの 『意志と表象としての世界』の第2巻の要約

第 2 巻では、主に「表象」としての世界について論じられています。

人間の知覚

ショーペンハウアーは、世界を認識するための手段としての人間の知覚に焦点を当てており、その知覚がどのように働いているかを探求しています。彼は、知覚が事物を外部から直接捉えるのではなく、自分自身の意識内で作り出していることを指摘しています。

つまり、私たちは外部世界そのものを見ているわけではなく、私たちの脳内にある表象を見ているということです。

表象

表象は、私たちが抱く概念や考え方によって形作られます。

そして、それが私たちが認識する世界そのものであるように錯覚してしまうのです。しかし、ショーペンハウアーは、表象に過ぎないこの世界が、本当の現実である「意志」によって支配されていると主張します。

この視点は、量子力学などの発展により私達が実際に物理的に見えていると思っているものの存在自体が、私達がそれらのものを観察することで物体化するいわゆる「観測者問題」などから、科学的にも実証されてきています。今から200年前、19世紀初頭にこの結論に至っていたショーペンハウアーは、天才過ぎたが故になかなか生前に理解を得ることが出来なかったということもできるでしょう。

意志

この「意志」とは、生命力や本能、欲求といったものであり、私たちの行動や思考の根源となっています。ショーペンハウアーは、この「意志」こそが真の存在であり、表象に過ぎない外部世界は、この「意志」が自己表現するための手段に過ぎないと考えます。

そして、彼はこの「意志」というものが、人間を苦しめる原因であると主張します。

欲求や本能に従って行動することで、私たちは常に不足や不満を感じてしまい、この苦しみから解放されることはできないと考えます。彼は、この苦しみから逃れるためには、自己の欲求を否定することが必要だと主張します。

ショーペンハウアーの思想は、当時のドイツ哲学界に大きな影響を与え、また、フリードリヒ・ニーチェやジークムント・フロイトといった後の思想家たちにも影響を与えました。彼の思想は、西洋哲学史の中でも重要な位置を占めており、現代においても影響力を持っています。

東洋哲学の影響と現代社会への示唆

東洋哲学の影響と現代社会への示唆

また、ショーペンハウアーの思想は、東洋哲学にも類似した要素を含んでいます。彼は、仏教の「四苦八苦」やインド哲学の「マーヤー」などにも触れており、自己の欲求を否定し、苦しみから解放されることを目指すという点で共通しています。

『意志と表象としての世界』は、哲学的なテクストであり、その論理的な展開や専門用語などは、初学者にとっては理解しづらい部分もあります。しかし、ショーペンハウアーの思想に触れることで、人間の知覚や欲求、苦しみといった問題について深く考えることができます。

また、ショーペンハウアーの思想は、現代においても有用な示唆を与えています。例えば、現代社会においては、消費主義や利己主義が横行し、多くの人々が自己の欲求や快楽を追求することに焦点を当てがちです。しかし、ショーペンハウアーは、このような欲求に囚われることが、真の幸福につながらないことを指摘しています。

彼は、自己の欲求を抑制し、無私無欲の境地に至ることが、真の幸福につながると考えました。

心理学・精神医学への影響

心理学・精神医学への影響

さらに、ショーペンハウアーの思想は、人間の心理学や精神医学にも影響を与えています。彼の「意志」という概念は、フロイトの無意識やユングの集合無意識といった概念とも関連しており、人間の行動や思考の根源を探求する上で、重要な示唆を与えています。

『意志と表象としての世界』は、深遠な哲学的思考を含んだ重要な書籍であり、興味のある人にとっては、一読する価値があります。ただし、その理解には時間と努力が必要であり、専門的な哲学知識を持つ人々にとっても、容易に理解することができるものではありません

ブログ管理人:大山俊輔

上記、量子力学との関係性を指摘しましたが、むしろ、ショーペンハウアーを理解するには、量子力学、東洋思想、スピリチュアルなど幅広い視点を取り込むことが近道だと思います。にしても、本著はショーペンハウアーが31歳の時に書いたものですが、この域に達していたというのは、もう化け物ですね・・・。

『意志と表象としての世界』は、ショーペンハウアーの哲学の中でも重要な位置を占めていますが、彼の他の著作も同様に深い思考を含んでいます。例えば、『道徳の根本問題』や『人間の自由意志』などは、彼の思想をより詳細に理解するために読まれることが多いです。

『意志と表象としての世界』の第2巻は、ショーペンハウアーの思想を理解するための基礎となる部分であり、彼の思考を深く掘り下げることができます。

初めて読む人には、難解な部分もあるかもしれませんが、彼の思想に興味を持つ人にとっては、必読の書籍といえます。

アルトゥール・ショーペンハウアー 『意志と表象としての世界』の第3巻の要約

いよいよ第 3 巻です。

第 3 巻では、「知覚された世界の特性についての詳細な分析」を提供することを目的としています。ショーペンハウアーは、この巻で、現象的世界がどのようにして私たちに現れるか、そしてそれが物自体とはどのように関連しているかについて論じています

ショーペンハウアーによれば、私たちが知覚する世界は、意志と表象の二つの側面を持っています意志は、私たちが体験する主体的な世界であり、表象は、意志によって構成される現象的世界です。ショーペンハウアーは、意志と表象を対照的な存在として位置付け、それぞれが現象的世界を異なる方法で表現すると主張しています。

「法則の理論」

ショーペンハウアーは、現象的世界が私たちにどのように現れるかを説明するために、「法則の理論」と呼ばれる考え方を用いています。これは、私たちが知覚する世界が、私たちの意志に従う法則に従って構成されているという考え方です。つまり、私たちが体験する世界は、私たちの意志に従って形作られたものであり、私たちの知覚は、この法則に基づいて現象的世界を反映しているとされています。

ショーペンハウアーは、この法則の理論を用いて、現象的世界が私たちにどのように見えるかを説明しています。彼は、現象的世界が私たちに直接現れるわけではなく、私たちの知覚は私たちの脳内で構成されたモデルに基づいて行われていると主張しています

つまり、私たちが知覚する世界は、私たちの意志に従う法則に従って構成されたものであり、私たちの脳内でその法則に基づいて再構成されたものであということです。

知覚

ショーペンハウアーは、現象的世界が私たちにどのように現れるかについて、さらに、私たちが知覚する世界が「空間」と「時間」によって構成されていると主張しています。空間と時間は、私たちが現象的世界を理解するために必要不可欠な概念であり、私たちが世界を認識するためには、これらの概念が必要不可欠であるとされています。

また、ショーペンハウアーは、知覚された世界が私たちに直接現れるわけではなく、私たちの脳内で再構成されたモデルに基づいて構成されていると主張しています。このことは、私たちが知覚する世界が私たちの主観的な経験であるということを示唆しています。

表象

さらに、ショーペンハウアーは、私たちが知覚する世界が「表象」として構成されていると主張しています。つまり、私たちは物自体を直接知ることはできず、私たちの知覚は、現象的世界を表象するものであるとされています。このことは、私たちが物自体を直接知ることができないということを示唆しています。

以上が、アルトゥール・ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』の第 3 巻の要約です。

この巻では、現象的世界が私たちにどのように現れるか、そしてそれが物自体とはどのように関連しているかについて、詳細な分析が提供されています。私たちは、意志と表象の二つの側面を持った世界を知覚しており、私たちの知覚は私たちの主観的な経験に基づいて構成されているとされています。

また、私たちが知覚する世界は、私たちの脳内で再構成されたモデルに基づいて構成されており、私たちは物自体を直接知ることはできないとされています。

さらに、ショーペンハウアーは、私たちが知覚する世界が「意志」としても現れると主張しています。私たちは、私たちが知覚する現象的世界だけでなく、私たち自身の内面にある「意志」を知覚することができるとされています。この「意志」とは、私たちが行動を起こす動機や欲求、情動などを含むものであり、私たちの行動を支配する力とされています。

さらに、ショーペンハウアーは、この「意志」という力が、私たちの苦悩や不安といったネガティブな感情を引き起こす原因となると主張しています。私たちが何かを欲し、それを手に入れようとするとき、私たちはその欲求を満たすことができない場合があります。その場合、私たちは苦悩や不安を感じることになります。そして、ショーペンハウアーは、このような苦悩や不安を避けるために、私たちは「否定」という行為によって、自分自身や他者を攻撃することがあると主張しています。

幸福について

最後に、ショーペンハウアーは、私たちが幸福を追求することが重要であると主張しています。

しかし、彼は、私たちが欲するものを追求することが、私たちに幸福をもたらすとは限らないとも主張しています。私たちが欲するものは、私たちに短期的な喜びをもたらすかもしれませんが、長期的には私たちに苦悩をもたらすことがあるとされています。したがって、彼は、私たちが幸福を追求するためには、自分自身を律することや、自分自身の欲求を抑制することが必要であると主張しています。

ブログ管理人:大山俊輔

このあたりは、ショーペンハウアーも本著での解説が難解だと思ったのか、後に補足を兼ねた書籍として『余録と補遺』を執筆しています。本著が切り出されて、『読書について』『幸福について』『自殺について』など、『〇〇について』というタイトルの書籍が数多く出版されました。こちらのほうが読みやすいですね。

この巻では、私たちが知覚する世界が「意志」としても現れること、そしてこの「意志」が私たちに苦悩や不安をもたらす原因となることが詳細に分析されています。また、彼は、私たちが幸福を追求するためには、自己制御や自己抑制が必要であるとも主張しています。

このように、ショーペンハウアーの思想は、現代の心理学や哲学にも大きな影響を与えています。彼の哲学は、私たちが自分自身と向き合い、自己制御をすること重要性を強調し、現代社会においても高い評価を受けています。ただし、ショーペンハウアーの哲学は、現代の価値観とは異なる面もあります。彼は、人間の本質は苦悩であり、幸福などの感情は一時的なものでしかないと主張しています。そのため、彼の哲学は、現代の幸福追求社会においては批判的に受け止められることもあります。

また、彼の哲学は、動物愛護や人権についても軽視しているとの批判があります。

しかし、それでもなお、ショーペンハウアーの哲学は、多くの人々に影響を与え続けています。彼の思想は、人間の本質や人間の苦悩について考える上で、重要な視点を提供してくれます。また、彼の哲学は、私たちが自分自身と向き合い、自分自身の行動を反省することの重要性を教えてくれます。

ショーペンハウアーの思想に影響を受けた人物

ショーペンハウアーの思想に影響を受けた人物は多くいます。
彼は、「生の哲学」の始祖とも呼ばれ、その思想は、ニーチェ、ディルタイ、ベルクソンなどへ受け継がれ、最終的には、スペインのオルテガ・イ・ガセットなども多大な影響を受けています。また、デューイなどプラグマティズムへの影響、そして、フロイトやユングなど心理学への影響も大きいと言われています。

代表的なものとしては以下のような人物が挙げられます。

フリードリヒ・ニーチェ

ドイツの哲学者であり、ショーペンハウアーの思想に感銘を受けたが、後に批判的になった。ショーペンハウアーの厭世観や非合理主義を発展させ、生の肯定や超人や意志の力といった概念を提唱した。ニーチェについての考察は、以前「ニーチェ『ツァラトゥストラ』の要約 |「神は死んだ」、「超人」、「永遠回帰」などニーチェ思想をわかりやすく解説!」でまとめています。あわせてご参照ください。

哲学者ニーチェの代表的著作『ツァラトゥストラ』をわかりやすく解説! ニーチェ『ツァラトゥストラ』の要約 |「神は死んだ」、「超人」、「永遠回帰」などニーチェ思想をわかりやすく解説!

リヒャルト・ワーグナー

リヒャルト・ワーグナー

ドイツの作曲家であり、ショーペンハウアーの思想に深く傾倒した。ショーペンハウアーの芸術論や音楽論を参考にして、楽劇という総合芸術を創造した。

トーマス・マン

トーマス・マン

ドイツの小説家であり、ショーペンハウアーの思想に敬意を表した。ショーペンハウアーの思想を小説のテーマや登場人物や構造に反映させた。

ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン

ウィトゲンシュタイン

オーストリア出身の哲学者であり、ショーペンハウアーの思想に影響を受けた。ショーペンハウアーの言語論や倫理論や宗教論を参考にして、論理哲学や言語哲学や文化批判を展開した。

エルヴィン・シュレーディンガー

オーストリア出身の科学者。
量子論開祖の一人であると同時に、自分自身は、量子的な世界観に懐疑的でもあった。

シュレディンガー方程式(波動方程式)、シュレディンガーの猫などの思考実験で有名ですね。

あとがき

いかがでしたでしょうか?

ショーペンハウアーといえば暗いイメージが合ったかもしれませんがとんでもない。
私達人間を深いレベルで理解し、その中で、どのように幸せを見出すかということを真摯に考えた人だからこそ、一度ペシミズムの最果てまでいかねば見つからない光があることを読者に語りかけていたのです。

そのためには、まさに本著のタイトルにあるように、世界は私達の意志と表象であることに気づく必要があるのです。
一度、ショーペンハウアーを深いレベルで理解すると、むしろ、自らの生き方に対してより真摯に前向きに捉えることが可能になることでしょう。生の哲学の始祖と言われる所以もここにあります。

本著は読書好きでも圧倒されるボリュームで、なかなか手を出せる方はいないかもしれません。
ですが、そんなショーペンハウアーの思想を一冊に凝縮し、物語の形式で読ませてくれるのが『意志と表象としての世界』です。

大山俊輔