不安、ストレス、恐怖……。
常日頃、様々な負の感情に振り回されてはいませんか?
やり過ごそうと試みたり、あるいは人にぶつけてしまったり、自分自身とうまく付き合えないことに悩んではいませんか?
思考や感情といった細かな反応に気を向けるだけでなく、もっと踏み込んで、自分自身の精神について考えてみてはいかがでしょう。
この記事では、精神世界の分野で活躍するエックハルト・トールをご紹介します。
トールは、2008年には、ニューヨーク・タイムズが「アメリカで最も人気のある精神世界分野の著者」と評された人物です。代表的著書に『The Power of Now』(邦題:『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』)など素晴らしい書籍があります。この記事では、トールの生涯、書籍、そして、名言などを紹介します。
ストレスフルな現代社会を生きる私たちにヒントを与えてくれるはずです。
目次
エックハルト・トールってどんな人?
日本では知らない方も多いエックハルト・トール。
ベストセラーを生み出し、世界的に注目されている人物です。
彼の思想は広く支持されており、生まれや宗教観関係なく受け入れられています。
エックハルト・トールの生い立ち
エックハルト・トール(Eckhart Tolle)は1948年にドイツで生まれました。
幼少期から13歳までをドイツで過ごしています。
本人は、ドイツにいた頃はひどく不幸であったと話しています。
彼の両親は喧嘩を繰り返しており家庭環境は良くなく、後に離婚してしまいました。
また彼は学校でも孤立していたそうで、どこにも居場所が無いと感じる時間だったそうです。
彼の生活エリアには、第二次世界大戦で破壊された建物がそのまま残っていました。
居場所のないトールはその中で遊ぶうちに、「国家のエネルギー場の痛み」を感じるようになりひどく落ち込んだといいます。
13歳になった時、トールはドイツを離れ、スペインへ移住し父と暮らし始めました。
トールは高校へは進学せず、文学、天文学、語学を自宅で学習する道を選びました。
勉学に取り組んだこの時間はトールに大きな影響を与えます。
15歳の時、トールはドイツの神秘主義者ヨーゼフ・アントン・シュナイデルフランケンの著作群を読み、大きな影響を受けました。
哲学、理性、自己といったものに深く関心を持つようになったのです。
19歳になると、トールはロンドンへ移住、語学学校でドイツ語とスペイン語を教え始めました。
教員としてのキャリアを歩み始めたのです。
一見うまく進み始めたように見えるトールの人生ですが、彼自身はこの頃から「抑鬱と不安と恐怖」に悩まされるようになります。
人生とは一体何なのか、どういう意味があるのか、なぜ苦しいのか。
彼は人生の答えを求め始めたのです。
22歳になる頃、トールは自身の探求を、哲学、心理学、文学を通して実現しようと試み、ロンドン大学に進学します。
卒業後は奨学金を得てケンブリッジ大学の大学院生として研究を継続。
研究の傍ら、教官として学生の指導にもあたりました。
研究を続けたトールですが、彼の「抑鬱と不安と恐怖」は消えることはありませんでした。
自殺を考えるほどのひどい抑鬱に悩まされていたといいます。
ひどく落ち込む毎日を過ごしていたある日突然、彼の人生に転機が訪れます。
トールが29 歳のある夜のことです。
彼は劇的な霊的ともいえる体験をしたのです。
トールはこれを「内なる変革」と呼んでいます。
その後数年間はこの時の体験を整理し、理解を深め、知識として統合するための研究に費やすことになりました。
トールはやっと、求めていた真理に触れることができたのです。
彼の研究は、書籍や講演を通じて世界各地に広まっています。
現在トールはカウンセラー、指導者として活躍しています。
エックハルト・トールの活躍
彼の活躍で最も有名なものはその著書です。
中でも代表的な2作は北米だけでもすさまじい売上を記録しています。
『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』(原題 The Power of Now: A Guide to Spiritual Enlightenment)300万部、『ニュー・アース -意識が変わる 世界が変わる』(原題 A New Earth: Awakening to Your Life’s Purpose)500万部と、多くの読者に支持されています。
どちらもニューヨーク・タイムズのベストセラー一覧に載るほどの知名度で、度々一位に躍り出るほどの人気でした。
トールの思想をより深く学びたい、自身の問題を解決するために質問したい、そんな人が数多く現れるようになりました。
トールはそういった声に応えるため、自身の思想をより広く伝えるために、オンラインでの講習会を行っています。
そこは、トールが一方的に思想を発信するのみならず、ウェビナーの質問に答え討論を行うなど、積極的な対話の場となりました。
時にはウェビナーが一千百万人を超えるほど、大人気のものとなりました。
エックハルト・トールのおすすめ代表的書籍本
世界的に大人気のエックハルト・トール、彼の思想は一体どんなものなのでしょう。
代表的な書籍本を要約し、解説いたします。
『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』(原題 The Power of Now: A Guide to Spiritual Enlightenment)
原書は1999年、日本語訳版は2022年に刊行されました。
トール初の著作である本書には、トールが体験した「内なる変革」がどういったものだったのかが書かれています。
トール自身が体験の理解を深めていったプロセスを丁寧に書き、「内なる変革」を得るためにはどうすればいいのかが、セミナーやカウンセリングで受けた質問を交えながら説明されています。
『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』の目次
序章 この本が生まれたいきさつ
第1章 思考は「ほんとうの自分」ではありません
第2章 「いまに在る」と、人生の苦しみは消える
第3章 「いまに在る」生き方がさとりのカギ
第4章 思考はいつも「いま」から逃げようとしている
第5章 「いまに在る」ってどんなこと?
第6章 うちなるからだ「インナーボディ」
第7章 「目に見えない世界」の入口
第8章 さとりに目覚めた人間関係をきずこう
第9章 「心の平安」は幸福と不幸を超えたところにある
第10章 「手放すこと」って、どういうこと?
トールが体験した「内なる変革」――さとりとは
自殺を考えるほどの不安やあせりに苦しんでいた29歳のトール。
ある夜に目を覚ますと、いつも以上に強く「自分は絶望のどん底だ」という思いにおそわれました。
家の中にあるもの、外から聞こえてくる音、何もかもが不自然で冷たく感じられ、あらゆるもの、自分自身さえも無意味に感じたのだといいます。
どうして生きなければいけないのか、そんな思いに押しつぶされそうになった時、トールはふと気が付きます。
「生きよう」という本能的な自分と、「生きたくない」という2人の自分が存在している。
このどちらかが本物の自分に違いない。
この考えが浮かんだ後、頭の中が無の状態になり、次の瞬間にはすさまじいエネルギーのうずに引き寄せられたのだといいます。
このエネルギーのうずを、後にトールは「空(くう)」と呼んでいますが、初めは恐怖を覚えたこのうずに身を委ねると、その後の記憶はゆるやかに吸い込まれていったのだといいます。
翌朝、目を覚ましたトールに映った光景はいつもと異なるものでした。
鳥のさえずりは非常に美しく聞こえ、世界はダイヤモンドのように輝いて見えたのです。
この日トールは、世界が「人間の英知をはるかに超えた、無限の何か」だと認識したのです。
このスピリチュアルな体験は何だったのか、トールは理解は研究します。
そして行き着いたのは、人間はみな生まれながらにこのような真実を手にしているということ、それを「さとる」ことができない状態が苦しみを生み出しているということです。
さとりに目覚める方法
本書で、トールが強調しているのは「大いなる存在」と「いまに在る」という言葉です。
トールは「大いなる存在」を「死を運命づけられた無数の生命形態を超える、唯一の不滅の生命」と定義づけています。
目には見えないけれども、絶対に滅びることのない本質として生命に宿っているものです。
「ほんとうの自分」そのものでもあります。
「ほんとうの自分とは」名前や職業といった形式的なものではありません。
「自分が今ここにこうして存在している」という確固たる事実なのです。
「大いなる存在」と自分はつながっている、それがさとりという境地であるとトールは述べています。
人間はほとんどの時、思考している自分こそが「ほんとうの自分」であると錯覚しているとトールは述べます。
思考は人間に与えられた能力であり、人間の本質としてたびたび優先されてしまうというのです。
思考はあくまでも「道具」であって、自分自身を振り回すものであってはいけません。
目的もなく考え込んだり、無意味に悩んだりすることはありませんか。
それは思考に振り回されている状態といえます。
適切に扱えていない時、私たちは思考に主従権を握られている状態、「ほんとうの自分」とはいえない状態なのです。
感情についても同じことがいえます。
「ほんとうの自分」になり、さとりをひらくために必要なのは「いまに在る」状態だといいます。
「いま、この瞬間」を味方にすること、受け止めることが必要なのです。
「時間のわなにはまる」と思考に追従する人生になってしまうとトールは述べています。
過去の記憶、未来への期待・不安、そういった「いま」ではないものに振り回されて生きてしまうからです。
過去をアイデンティティに、未来を目標達成の道具にして執着してしまいます。
「いま」を生きている私たちにとって、実際のところ過去も未来も幻なのです。
時間は幻だとさとり、ただ「いまに在る」状態でいること、それこそがさとりの境地です。
『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』の要約まとめ
ここで解説したのは、トールの思想の大まかなものに過ぎません。
本書の中では、実際にトールがセミナーなどで受けた質問とそれに対する回答も多数掲載されています。
「さとりの境地にいたるなんて無理」「自分には問題があるから」そうためらう方も、共感できるような内容となっています。
ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。
『ニュー・アース -意識が変わる 世界が変わる』(原題 A New Earth: Awakening to Your Life’s Purpose)
原書は2005年、日本語訳版は2008年に刊行されました。
全米580万部突破、世界37か国で翻訳とスーパーベストセラーになっています。
先程ご紹介した『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』とはまたテイストが変わり、こちらは現在進行している社会問題に焦点をあてています。
一個人の幸せだけでなく、人類全体の幸せを考えるものとなっています。
『ニュー・アース -意識が変わる 世界が変わる』の目次
第1章 私たちはいますぐ進化しなければならない
第2章 エゴという間違った自己のメカニズム
第3章 エゴを乗り越えるために理解すべきこと
第4章 エゴはさまざまな顔でいつのまにか私たちのそばにいる
第5章 ペインボディ――私たちがひきずる過去の古い痛み
第6章 「いまに在る」という意識が私たちを解放する
第7章 ほんとうの自分を見つける
第8章 内なる空間の発見
第9章 人生の目的は「何をするか」ではなく「何者であるか」
第10章 新しい地
なぜ人類は危機に直面しているのか
地球温暖化による異常気象、世界各地で起こる戦争や紛争、発展途上国における飢饉や飢餓、先進国における経済や金融の破綻、治療法のいまだ見つからない疾病、グローバル化がもたらす格差と貧困、なくならないテロ、あるいはそれらによって疲弊する心と体。
あげるときりがないような問題が、私たちを取り巻いています。
トールは、「このようなことは、すべてが人類固有の機能不全と呼ばれる状態がひきおこしている」と述べています。
それはある種の集団的狂気とも呼べるようなもので、ほとんどの人間の「ふつうの」精神状態にはたいていこの機能不全が含まれているのだといいます。
これは具体的にどういうことでしょうか。
トールは「欲望」と「エゴ」を用いて説明しています。
人間の欲望は構造的なものです。
精神的な構造が変わらない限り、どんなものを得たとしても永続的な満足は起こり得ません。
人間は、何をもっていようと、何を手に入れようと幸せにはなれないのです。
常に、もっと満足できそうな他の何かを、不完全な自分を完全だと思わせてくれる、欠落感を満たしてくれるはずの何かを、探し求めずにはいられない性分なのです。
欲望に加えて人間は、様々な行動を引き起こすエゴを内包しています。
自分自身を強化するために他者に不満を抱いたり、ぶつけたりするものその1つです。
声に出そうと頭のなかに留めておこうと、エゴによる感情に突き動かされるという事実に根本的な違いはありません。
不満に付随する感情として、恨むという能力も人間は持ち合わせています。
恨むというのは苦々しい思いをする、憤慨する、馬鹿にされたと感じる、傷ついたと思うこと。
人は他人の貪欲さ、不誠実さ、いい加減さ、現在や過去の行動、言ったこと、しなかったこと、すべきだったことやすべきでなかったことを恨むのが好きなのです。
「欲望」と「エゴ」を背負った人類が、全体の幸せにありつけず危機に陥るのは必然ともいえます。
一方で、私たちがこの危機を避けたい、解決したいと考えることができるのですから、どうにかして自分たちに打ち勝たなくてはいけません。
人類は危機から抜け出すために
トールが提唱していること、それは、「目覚める」ことです。
「目覚める」とはいったいどういうことでしょうか。
本書でトールは、「意識を変化させること」としています。
前述の通り、人間は欲望やエゴに影響される生き物です。
起こった出来事を気にしたり、それによって他人に善悪のレッテルを貼ったりしてしまいます。
出来事に対する意識をまずは変えようとトールは提唱しているのです。
具体的にはどう変化させればいいのでしょうか。
そもそも出来事というのは、起こった時点で自分という存在と調和しているはずだとトールは述べます。
起こった出来事に対して必要以上に反応する必要はないのです。
これは、『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』で説明されていた思考に振り回されない生き方に通じますが、何か起きた時に私たちが心の中で取るべき行動は、抵抗ではなく受け入れることなのです。
ただ、言うのは簡単ですがこれは難しいことです。
トールは意識を変化させるための実践的な方法を紹介しています。
それは、無意識に行っている次のような反応パターンを自覚することです。
状況を改善できるわけでもないのに発言している。
他者そのものを意識するのではなく、その他者に自分がどう見られているかを気にする。
所有物や知識、容貌、地位、肉体的力などによって他者に感銘を与えようとする。
何かあるいは誰かに対する怒りの反応によってエゴを一時的にふくらます。
ものごとを個人的に解釈して不機嫌になる。
心のなかで、あるいは口に出して無駄な不満を並べて、自分が正しくて相手が間違っていると決めつける。
注目されたい、重要人物だと思われたいと考える。
こんなパターンが自分にあることを発見したら、そのパターンを捨てたらどう感じるか、何が起こるかを観察してみてほしいとトールは述べています。
「目覚めた」状態に近づくことができるはずです。
『ニュー・アース -意識が変わる 世界が変わる』の要約まとめ
本書は、「人類ひとりひとりの意識が変わり、目覚めるとき、私たちはよりよい人生を手に入れることができ、よりよい世界をつくることができる」すなわち、新しい地「ニュー・アース」へ向かうための一冊です。
本書には、この記事では紹介しきれなかった様々な具体例が掲載されています。
自身のエゴへの気付き、意識を変化させるための手がかりが発見できるはずです。
エックハルト・トールの名言
過去にニューヨーク・タイムズ紙で「アメリカで最も人気のある精神世界分野の著書」と評されたトール。
彼の言葉の中には、驚くほどすんなりとあなたの中に入るものがあることでしょう。
トールの名言をいくつかご紹介いたします。
「『さとり』とは『すべてはひとつであり、完全である』という境地に至ることです」
「自分の内側を整えれば外側は自然とうまくいくものです」
「思考はあなたではないのです」
「『いま』が唯一の現実であり過去と未来は幻なのです」
「最も一般的な自我の識別は所有物、あなたの仕事社会的地位、知識と教育、身体的外観、能力、人間関係、人と家族の歴史信念……。そしてこれらのどれもがあなたです」
「あなたがすでに持っているものに満足すること。これがすべての豊かさの基礎になります」
「あなたを支配しているものが恐怖ではなくなればあなたには無限の可能性が広がります」
まとめ
いかがだったでしょうか。
普段、不安、ストレス、恐怖、様々な負の感情に振り回されている方は、自身の内に踏み込んで精神について考えてみることをおすすめします。
自身を見直すとき、変えたいと思う時、トールの言葉が手助けになるはずです。
ぜひ、彼の著書をお手に取ってみてはいかがでしょうか。
大山俊輔