大山俊輔
さて、突然ですが、”FOMO”(フォモ)って言葉の意味をご存知ですか?
海外のSNS関係のスピーチや書籍などを見ていると頻出するこの単語。
最近では、日本の雑誌やオンラインメディアでもたまに見かけるようになりました。
やっと日本でも認知でたか〜、とも思いますが、それだけこのFOMOに病んでいる人がアメリカだけではなく日本でも増えてきている証拠だといえます。
ところでFOMOって?
“FOMO”は“Fear of missing out”を意味します。
直訳すると、「何かを逃したくない恐れの心境」。
びっくりしたが、Cambridge Dictionaryにも単語として登録されているんです。
それだけ、今のソーシャル社会の変化が急激に発達し、かつFOMOの影響が大きいことが分かる出来事ですよね。
ちなみに、Cambridge DictionaryでのFOMOの定義は下記のとおりです。
“especially caused by things you see on social media”とソーシャルメディア上での出来事であることを強調しているのが印象的ですね。
目次
FOMOが深刻な社会問題に
先日、Habit Summitでアメリカに行った時のひとつのテーマが”Indistractatble”。
つまり、どうやって集中力を取り戻すかというお話でした。
Habit Summitについてはこちら
↓
Habit Summitの参加者はシリコンバレーエリアで働くUI・UXデザイナーがメイン。
彼らの多くは、Stanford Persuasive Technology Labなどの出身者が多く、人の行動に大きな影響を与える行動心理学などは基本的教養として理解しているような人たちです。ところが、その彼ら自身から問題点についての指摘が出てきているのが印象的でした。
それだけ、負の側面が看過できないレベルになってきていることの証左なのかもしれません。
それでは、FOMOとはどんな症状でしょう?
一般的なFOMOなのはこんな感じです。
・ 自分が誘われてない飲み会に友達が写っているFacebookのフィードが出てきて気になって仕方なくなった
・ 友達や親戚の方が自分より幸せそうに見えて、無意識のうちにその人のフィードばかり見てしまう
・ なんか大事なニュースを見逃してしまってないか?と不安になってついついニュースサイトやSNSを見てしまった
こんなことが気になってFacebook、インスタやアプリを立ち上げてしまったことは誰でもありますよね
これこそが、代表的な“FOMO”です。
先日、アメリカを訪問した際にFacebookのザッカーバーグが公聴会に呼ばれていて日本でもニュースになっていました。実はアメリカでFacebookについて問題になっているのはどちらかというとSNSがFOMOを誘発しやすいこととそれによる社会的なコストの大きさについて真剣に議論になってきているからです。
FOMOの問題点
では、具体的にFOMOについての問題点をまとめてみました。
問題 1 :生産性の低下
多くの人は、スマフォが普及してから社会が便利になったように見えるのではないか?そんな風に思っていると思います。実際、『スマフォ仕事術』などといったテーマの本が出回っていますが、それはスマフォで便利になった一部の部分を切り取ってみているからともいえるでしょう。
こういうのはデータで見たほうが早いです。
実は米国の労働生産性成長率を見てみるとこんな感じです。
こちらは米国のデータですが、実は1990年代〜2007年までくらいが一番生産性改善のペースが良かったことがわかります。
もちろん、生産性の定義は分子が付加価値、分母が労働時間になるので、分子の付加価値の名目増加が一番影響が大きく、経済成長率や物価上昇率といったマクロ指標の影響も考慮する必要はあります。とはいえ、肌感覚としてスマフォが普及し始めた2000年台後半から我々の生産性向上率が落ちてるのは腑に落ちる気がするのではないでしょうか?
問題2 : 依存症
もう一つの問題は、依存症ですね。
このエントリでも何度と書いてきたテーマです。
現在、我々人類は1日に平均で150回スマフォをチェックしているそうです。
えっ?そんなに?
そう思うかもしれないが、実際そうらしいですよ。
現在、我々が使うアプリ ー 代表的なものはFacebookやインスタのようなSNS、あるいはソーシャルゲーム、そして、意外と思われるかもしれませんが、メールやSlackなどのチャットアプリ ー の大部分はオペラント条件付けを活用したアルゴリズムを採用しています。つまり、パチンコやスロットマシンと同じ仕組みなんです。
メールの毒を減らす方法~オペラント条件付けの罠から抜け出る方法・ あるいは、同じ確率であたることもない。
・ つまり、結果を読めないが、たまにあたる。
このあたるのが行動心理学でいうところのReward、すなわち、“報酬”と言われるものです。
そして、あたる確率には定率と変率があります。
定率は10回パチンコの玉を打てば%の確率であたるとわかる時。
一方、変率は1回目にフィーバーすることもあれば、100回打ってもあたらない。そんな%が変動する状況です。
このオペラント条件付けは、定率ではなく変率(variable ratio)であることがポイントです。私たちは確実に、%が読めるときより読めない時の方が興奮してハマってしまうのです(笑)。
なぜなら、人の脳では期待が高まるとドーパミンと呼ばれる神経伝達物質(脳内ホルモン)が側坐核に放出されて快感を感じます。これが報酬です。
こうして、あたるかわからないので、気になって何度も続けてしまう。
結果、依存症になる。
実は、Facebookなどのフィードアルゴリズムはまさにこれを採用しています。確かに8割から9割のフィードは広告、どうでもいい友達のつぶやきですよね。ただ、たまに気になるフィードがよめない確率で登場する。それが楽しかったり気になって報酬となります。
そして、人はアクションと報酬が結びつくとドーパミンがでます。
スマホのケースで言うと、報酬はちょっと面白いフィード。そして、アクションは手のスワイプです。
まさに、スキナー箱の鳩と同じです。
我々の脳は基本、エサを期待して首を突っ込む鳩と一緒なんです。
これと一緒
つまり手をスクロール(スワイプ)する(行動)=変率での報酬(たまに面白い、気になるフィード)とリンクされます。方程式はこんな感じ。
↓
・ 行動(スクロール・スワイプ)
↓
・ 報酬(変率)
↓
・ 依存
2つのトリガー(内的・外的)
先ほどの報酬(ドーパミン分泌)のキッカケは何でしょう?
Facebookをついつい立ち上げるときのキッカケを思い出してみましょう。
真っ先に思いつくのは通知機能ですよね。
これは、トリガーとしては外的トリガーと言えます。他にはメールが届くときの受信音、あるいは、携帯電話の着信なども同じです。
ただ、通知だけで私たちの脳は興奮するわけではありません。
あくまでもきっかけの1つです。
やっかいなのは、この外的トリガーではなく内的トリガーと呼ばれるものです。
あなたは、通知などがあるないに関わらず、ついつい、Facebookにログインしてしまったり、メールをチェックしたいと動機にかられてチェックしたことはないでしょうか?
これが内的トリガーの代表的なものです。他にも、
・ どうでもいいレベルの出来事なのにわざわざ写真を撮影してインスタにアップしてその後いいねが気になって何度もみてしまった
・ エレベーターで人が多くて少し不安になってついついメールチェックした
こうした動機は一般的に内的トリガーと言われます。
この内的トリガーの大部分は、「不安」や「取り残されたくない」「ヒマ」といった負の心理的な動機です。そして、これこそが、アプリを作っている会社が自社商品に仕組んでいる依存させる仕組みなんです。(これは、開発側もわかってこうしたUIにしていますので要注意)。
それでは、FOMOはどうでしょう?
まさに、FOMOは内的トリガーの筆頭格だといえるでしょう。
実はFacebookだけではありません。
インスタやSnapchatなどのSNSは言うまでもないですが、他にも、
・ ニュースサイト
・ 写真編集(Google Photoなども)
・ TODOリスト
・ 動画(Youtube、Netflixなど)
などを開発している会社もみな同じ設計思想でアプリなどを開発しています。
彼らとしても、滞在時間と広告収入がリンクしたビジネスモデルである以上は、一度ユーザーを捕まえたらそのユーザーの滞在時間を増やすことが彼らのビジネス上の利益を最大化する。そうなっちゃってるんです。
FOMOは21世紀のタバコになる
Yコンビネーター創業者のポール・グレアムは、
スマートフォンは21世紀のタバコとなるだろう。
という言葉を残しています。
まさに、タバコとスマホは似ています。ニコチンは脳の報酬系に働きかけドーパミンを放出させることで依存症にさせます。つまり、FOMOで私たちがスマホ依存になるのと同じメカニズムなんです。実は、コカインなども脳に働きかける効果は全く同じ。そう考えると、2010年以降の人類はほぼすべての人達が多かれ少なかれ依存症になっている。『スタンフォードの自分を変える教室』の著者、ケリー・マクゴニガルはスマフォのことを“携帯ドーパミン装置”と名付けています。
せっかく喫煙が減って人類の中毒の一つが減ったと思ったがまた増えてしまったということでしょうか。
まだスマフォが普及して10年足らず。
我々人類は700万年の進化を通じて、他の動物より大きな大脳新皮質(主に前頭前野)などを手に入れ文明を築き上げたが、こうしたテクノロジーの進化はあっという間。つまり、進化を通じた適応では間に合わないのでこうした問題が起きてしまうわけです。
となると、解決策は3つだけ。
- 自己防衛(問題を理解してうまく付き合う)
- テクノロジーによる機能制御
- 法律を通じた規制と開発者の倫理
根本的な解決は2と3になるのかもしれません。
ひょっとすると、タバコのときと同じ規制が加わる可能性だってないとはいえません。
ただ、こうした問題に法律が対応するには時間がかかるので当面は自己防衛するのがベストでしょう。
そこで、少しだけ自分が使ってるツールを紹介しました。
おすすめのFOMO対策!
FOMOの真髄は「他人が気になること」という内的トリガー。
そして、その内的トリガーを定期的に喚起するのが、プッシュ機能や通知などの外的トリガーです。
つまり、FOMO対策で一番手っ取り早いのは、外的トリガーとなるこうした通知を外していくこと。
究極の対策は、アカウントをなくすことでしょうが、ここまでしたい人はあまりいないでしょうし、困ることもありますよね。ということで、今すぐできる方法やツールをFacebookを例に紹介します。
① 外的トリガーを外す
a) 通知をはずす
まず、手っ取り早いのは通知を外すことです。
代表的なのは、スマフォの通知ボタン表示をやめてしまうこと。
こちらのサイトに方法が書かれているので試しにやってみるとよいでしょう。
参考:iPhoneでの通知の設定方法と使い方
https://www.ipodwave.com/iphone/howto/notifications.html
外的トリガーの代表たる通知がなくなる(減る)だけでも、この無限のドーパミンサイクルにハマるキッカケを減らしてくれます。
b) ドーパミン系アプリをスマフォの画面の後ろに持っていく
多くの人は、Facebook、Line、メールやゲームといったアプリをスマフォのランチャートップに持ってきているのではないでしょうか?これこそ、自ら「私の側坐核にドーパミン出してください!」と罠にはまるようなもの。とりあえず騙されたと思って、2つ目以降の画面に持っていこう。これだけでも、Facebookを立ち上げるのにトップ画面から1つ(あるいは2つ)スワイプする必要があって手間が増えるので、チェックする回数が減ります。
唯一のデメリットはSNSを通じた交流が減ることでしょうか。
でも、もちろん、メリットのほうがデメリットより多い。
私も母親に「Lineの返事が全然来ない」と文句言われます(笑)。
でも、これくらいがちょうどよいのです。
② 内的トリガーを外す
a) 友達ではあるがフォローしない
次に、内的トリガーを外す。
つまり、他人が気になる、あるいは、不安になるといったFOMOに陥る環境にならなくするのです。
まず、第一にオススメなのは気になる友達や知り合いのフォローをはずすこと。
参考:フェイスブック:友達のままでフィードを非表示にする方法
http://www.tabroid.jp/news/2014/04/facebook041101.html
特定の人だけフォローしないというのも可哀想なので私はほとんどすべての友達は友達として繋がってるが基本フォローしていません。スマフォでもこうしておくと、フィードには友達のエントリが出てこないので他人の動向が気になることがなく自分のことに集中できます。
しかも、友達関係はちゃんと続いているので、大事なことがあるときだけメッセンジャーなど使えば良い。
たまに会うこともあります。その人のアップデートを知りたいなら、その時に久しぶりにチェックしてあげましょう。フィードに日々出てきて気になってしまうことによる変率報酬の罠を避けられるのでドーパミンの罠にも陥らないです。
b) 雑魚フィードを名言フィードに変える
なかにはPCでFacebookをしている人もいるかもしれません。
そんな人にオススメなのは、Chrome Extensionの”News Feed Eradicator for Facebook”です。
これを入れるとなんと、フィードが消えて代わりに偉人の名言が出てくる(笑)。
他人のつまらないドヤ顔投稿みて自分の気持ちが動揺したりFOMOに振り回されるくらいなら、偉人の言葉に心をかきたてられて仕事に向かうほうが良いのではないでしょうか?
もっと自分のことに興味を持とう
FOMOは結局のところ、他人と自分の比較をしてずっと気になること。
そして、その負の感情によりSNSなどを何度も立ち上げてアップデートする度にドーパミンが出て自分自身が依存症になってしまうことなんです。
こうしたことで神経をすり減らす事ほどもったいないことはないですよね。
大事なことは「もっと自分に関心を持つ」ことだと思います。FOMOに陥る人の気持の軸は自分ではなく、「他人をベースにした自分の相対的な立ち位置」。
これだと、常に他の人があれをした、これをしたということが気になってしまいます。
結論から言うとみんな暇なんです。
暇であり、他人と同じ自分に安心してしまうのです。
特に均一的な教育を受けて同質的な環境で育ちがちな日本人は個人的にはFOMO中毒にハマりやすいと思います。もっと自分に興味を持とう。
拡げよう、◯影響の輪(☓関心の輪)- 『7つの習慣』の中でも超重要概念
自分がコントロールできるのは自分だけ。
コントロールできない他人に振り回されているほど人生の時間は長くない。
時間は我々誰しもが共有する大事な資産です。
その時間の使い方の差で人生が大きく変わってきますよ。
大山俊輔(ハビットマン)