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『国富論』の要約とわかりやすく徹底解説! | アダム・スミスとはどのような人なのかについてもわかりやすくまとめました

「アダム・スミスとはどういう人物ですか?

こう聞かれたときに、答えることはできますか?多くの人は「名前は知ってるけどどんな人か知らない」と回答するのではないでしょうか?

ちょっと経済学をかじった人でも、

  • 『国富論』の著者だっけ?
  • 近代経済学の父みたいな人だよね?
  • 神の見えざる手とか言ってた人?

くらいの答えが多いと思います。

茶もふ

茶もふと申します。現在は教育に関わる仕事をしながらライターをしております。大学では法律を中心として、経済学などの文系学問を勉強しておりました。経済学や資本論は私たちの生活に直結する話であり、いま話題の「積立NISA」などによる資産運用や投資信託を行う上でも重要な知識になります。

では、「『国富論』とはどういった書籍なのか?」「アダム・スミスが近代経済学の父と呼ばれている理由は?」と聞かれたらどうでしょう。

『国富論』は全5編から構成される書籍であり、1編あたりのページ数も多いため、全て読むには膨大な時間がかかります。また、その内容も難しいため「見えざる手」などの言葉は聞いたことがあっても、その内容をしっかりと理解している人は少ないのではないでしょうか。

経済学や資本主義と聞くと難しい話であると感じる人が多いと思います。そこで今回は、アダム・スミスと『国富論』につきまして、経済学初心者向けに分かりやすく徹底解説いたします!

アダム・スミスの主著『国富論』とは?

アダム・スミスを知るために欠かせないものは、スミスの主著である『国富論』です。しかし、その内容は膨大であり、初心者にとってはとても難解なものです。大学で経済学を専攻して学んでいた経験がある人でもない限り、『国富論』を全て読んだことがある人はほとんどいないと思います。

サイト管理人:大山俊輔

私も大学時代の専攻は経済学史でしたが、『国富論』は読んでません(笑)。

まずは、『国富論』を理解するにおいて特に重要であるポイントを3つに絞り、経済学を勉強したことがない人にも分かりやすいように解説いたします。

ポイント1 – 重商主義の批判

重商主義とは

重商主義とは、外国への輸出によって金や銀などの貴金属を国内に蓄積することで国富が増すという考え方です。18世紀のヨーロッパにおいては、貴金属こそ価値があり富であるとされており、それを国内に蓄積することで国富が増すと考えられていました。つまり、輸出により貴金属を国内に入れて貯めこむことが国を豊かにし、輸入により貴金属を国外へ出してしまうことは国の富を減らしてしまうという考え方です。

この時代に最も一般的な経済理論であった重商主義を批判したのがアダム・スミスです。

スミスは、「国富とは労働生産によって得られる必需品と便益品である」と主張しました。これは、富の源泉は労働であり、国内市場における自由競争が社会全体の発展に繋がるという考え方です。このように消費を重視したスミスの主張は、これまで一般的であった「国富とは貴金属の蓄積である」という考え方とは異なり、重商主義を否定したものでありました。つまり、貴金属を消費し、外国市場から生活必需品や便益品などを輸入することで国民の生活が豊かになると考えたのです。しかし、輸出により貴金属を国に入れること自体を否定した訳ではありません。輸出によって貴金属が国内に入ってくることはもちろん国富が増すことであるとスミスは考えましたが、輸入によって様々な消費財を国内に取り入れることによっても国富が増すと主張したのです。

よって、外国と自由な貿易を行い、国内において自由な経済活動を行うことで国富が増すとスミスは考えました

このような自由放任主義はスミス以後に引き継がれていった考え方です。ただし、放任主義と言っても全て放っておけば良いというものではなく、市場メカニズムが働きにくいものに限っては政府がコントロールするべきであるというものです。詳しくは「アダム・スミスとはどのような人物なのか?」において解説いたします。

ポイント2 – 社会的分業の重要性

それでは、国内における経済活動を豊かにするにはどうすれば良いのでしょうか。アダム・スミスは分業を行うことで生産性が上昇し、経済活動が豊かになると考えました

例えばパンを生産する工程を考えてみましょう。小麦を育てて収穫する、収穫した小麦粉から小麦粉を作る、パンをこねて焼く、出来上がったパンを包装して販売するという工程を思い浮かべると思います。これら一連の作業を全て同じ人がやると膨大な仕事量となり、とても非効率的です。小麦を育てて収穫する人、小麦粉を作る人、パンをこねて焼く人、それを販売する人などと仕事を分業することで生産効率が良くなり、経済活動は豊かになります。このような社会的分業は動物にはできず、人間だけができるものであり、これにより世の中の経済が回っているとスミスは考えました。

そして、社会的分業において重要なのは、それぞれの作業を分業して行っている人々は生産効率を考えて分業しているのではないという点です。各人は単にお金を稼ぐためだけにそれぞれの仕事を行っているだけなのです。つまり、人間の本能である利己心こそが社会全体の利益に繋がっていくということです。

ポイント3 – 見えざる手

市場経済においては、各人が自己の利益追求をすれば、結果的に社会全体の経済を回すことになるとアダム・スミスは考えました

いま、あなたが飲んでいるペットボトルのお茶、お昼に食べたコンビニのおにぎり、昨晩に飲んだビール、つまみとして食べた餃子だって誰かがあなたのために生産してくれたものではありません。各人が自己の利益のために生産したものに過ぎません。自己の利益を追求することは社会的には利益が無いように思われますが、結果として社会の利益となっていきます。

このようにあたかも「見えざる手」によって社会全体の利益へと導かれるというスミスの考え方は、現代経済学の基礎となっています

アダム・スミスってどんな人?

アダム・スミスってどんな人

アダム・スミスは1723年にスコットランドで生まれました。主にイギリスで活動をし、主著には倫理学書『道徳感情論』経済学書『国富論』があります。自由主義経済理論を体系化したスミスは「近代経済学の父」と呼ばれるようになりました。

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スミスってこれだけ有名なのに著書はこの2冊だけなんですよね。

時代背景

産業革命産業革命期のイギリス

アダム・スミスの生きた18世紀のイギリスは、産業革命が起こり生産技術の革新が行われ、経済が大きく発展した時代でした。

特にインドからの錦織物が人気となり、大量生産のための織機などの機械が発明されていきました。世界で最初に産業革命が起こったイギリスは「世界の工場」と呼ばれ、工場の増加に伴い労働者数も増え、各地に都市が生まれました。そして、鉄道の発展により、都市同士が結ばれて原材料の運搬が活発に行われるようになり、国全体が1つの市場として成長していきました。

この時代は「啓蒙の世紀」と呼ばれました。従来の権威であった神学ではなく、事実を客観視する理性によって世界を見るという思想運動が行われたことで有名です。また、格差、貧困、戦争などの深刻な社会問題を抱えた時代でもありました。

スミス以前の絶対王政国家においては「国富とは金や銀などの貴金属である」という考え方が一般的でした。名誉革命によって議会制度及び政党政治の体制を確立した当時のイギリスでは重商主義を採用しており、保護貿易を主な経済政策としていました。

スミスによって唱えられた労働価値説はイギリスにおける産業革命の核となり、資本主義の発展に繋がったと言われています。18世紀のイギリス社会はスミス以前とスミス以後に分けられるほど、スミスの思想が大きく影響しました。

経歴

アダム・スミスはスコットランドのグラスゴー大学で道徳哲学を学び、卒業後にはイギリスのオックスフォード大学に進みました。その後、オックスフォード大学を中退し、エジンバラ大学で教鞭をとりました。1751年にグラスゴー大学の教授に就任した頃に哲学者ヒュームと出会い、スミスはヒュームの啓蒙思想に多大な影響を受けました。そして、1759年に主著である『道徳感情論』を出版しました。

スミスはヒュームが他界するまで親交を続け、ヒュームが他界した後にはフランスの啓蒙思想家たちと交流を持ちました。そして、1776年に主著である『国富論』を出版しました。その後、1778年にスコットランド関税委員に任命され、1787年にグラスゴー大学名誉総長に就任しましたが、1790年にエジンバラで病死しました。67歳で病死したスミスですが、生前に出版を計画していた「法と統治の一般原理と歴史」に関する書物の草稿を死の直前に焼却してしまいました。

残った一部の草稿は彼の死後に『哲学論文集』として出版されました。

現代経済学への影響

アダム・スミスは「近代経済学の父」と呼ばれ、スミスの主著である『国富論』は現代経済学の基礎であり、経済学における最大の古典であると言われています。

スミスは、人の本性は利己的で私利私欲であるという前提において、自己の利益のために働く各人の利己的な仕事が社会的分業を成り立たせるものだと考えました。一般的には悪とされる利己心が社会公益に繋がるため、理性的に色々と考えてはならないということです。一見すると社会には何も利益が生まれなさそうな利己的行為によって社会の利益が生み出され、市場がうまく機能するというものです。このような市場価格調整メカニズムを重視する考え方は、現代経済学の基礎となっています。

スミスはこのような市場メカニズム重視の考え方に基づき、政府の役割をできるだけ小さくする「小さな政府論」を唱えました。これは、経済活動は自由に行うべきだという自由放任主義の考え方ですが、とにかく全てを市場に任せておけば政府は何もしなくて良いという意味ではありません。市場メカニズムが働きにくい国防、司法行政、公共設備などについてのみ政府が責任を持つべきだとスミスは主張しています。

スミスが主張した「市場メカニズムを重視」はとても重要なことですが、そのデメリットをいかに政府が統制できるかが重点課題となっています。

アダム・スミスと『国富論』についてのまとめ

いかがでしたか。今回は、アダム・スミスと『国富論』について初心者向けに解説いたしました。これで自信を持ってスミスについて語れるようになったのではないでしょうか。

経済学というとなんだかとても難しい話であると感じる人が多いと思います。しかし、経済学は私たちの日常生活に深く関係する学問であり、実はイメージしやすい学問です。

この記事をきっかけに経済学に興味を持っていただけたらとても嬉しいです。今回は初心者向けに解説いたしましたが、もっと深く知りたいと思った人は『国富論』の読破にチャレンジしてみるのも良いでしょう。

茶もふ&大山俊輔