大山俊輔
さて、こんなニュースがありました。
おそらく、漠然とそう思ってた人は多いのではないでしょうか?
別にズームじゃなくてFacebookメッセンジャーでもSkypeでもいいですよ。
そうしたら、私の古巣のグロービス堀義人代表もこんなつぶやきされてました。
ここで重要なのはこの3点
・リアルより集中力が必要
・ボディ・ラングイッジが使えない
・アイコンタクトができない
これが理由ですね。
今回のエントリではなぜズーム会議が脳を疲れさせるのかについて、脳科学・行動経済学的な視点でまとめてみました。
目次
脳は食いしん坊
脳という器官は非常に食いしん坊な器官です。
人間の体重に脳が占める割合はわずか2パーセント。一方で私たちが食べる食事のエネルギーの20パーセントが脳に使われています。
もちろん、人類が他の動物に対して今のところ万物の長として地球で偉そうな顔をしていられるのは、まさに他の動物に対して圧倒的に優れている脳のおかげです。一方で、この人間の脳は非常に洗練された器官であるため、その結果としてとてもエネルギーを必要とします。つまり燃費の悪い器官なのです。
体重の2パーセントしかない脳が人間のエネルギーの20パーセントを必要とする・・・。
車でしたら大変に燃費の悪い車ということがいえますよね。そこで、脳はこれ以上ムダなエネルギーを使わないようにするために、2つのことを自動で行ってます。ちなみにどちらの機能も、潜在意識下で行われているため私たちが気づくことはほぼありません。
脳のどこを使うかで疲労が変わってくる
さて、その脳の中では様々な情報を処理していますが、処理する内容によって異なる場所を使います。ここで、概念的にわかりやすい図をご紹介します。
人間の脳には「3つの動物」が住んでいる
こういう言い回しがあります。
人類は、チンパンジーから分岐して更にホモ・サピエンスに進化するまでの間には数百万年もの時間が経過しています。なによりも、そのチンパンジーが地上に登場するまでの間にもより原始的な哺乳類、爬虫類、更にさかのぼり魚類などから進化してきているわけです。
私たちの脳は、突然変異で今のような進化を遂げたのではありません。
いえ、むしろ、原生動物の時代の名ごりを脳幹などのより原始的な部分に残しつつ、徐々に新しい機能を付け足していきました。
一番原始的なのは、「爬虫類脳」とも呼ばれる一番原始的な部分。
魚類や爬虫類などより原始的な動物と共通する部分であることからこのように呼ばれています。脳で言うと、脳幹、小脳、大脳基底核など、脳の奥部や中枢神経に近い部分です。主に、呼吸、視覚、嗅覚などと連動している部分でより本能に近い部分です。
その次は 「哺乳類脳」とも呼ばれる部分。
主には哺乳類と共通部分で、「爬虫類脳」より少し進化した場所です。場所でいうと、大脳の辺縁系と呼ばれる部位が関連します。「大脳辺縁系は「馬の脳」とも言われます。哺乳類のように喜怒哀楽を持つのはこれがここのおかげです。また、哺乳類脳は「訓練」と「無意識」に関連しています。したがって、犬が訓練によって芸を覚えたりするのもこのおかげです。
最後が「人間脳」です。
これは、おでこの部分にあたる前頭前非質(前頭前野)部分です。主に自己コントロールや概念を把握する高度な処理を行っています。未来を見据えて、今自制したりできるのはこの人間脳のおかげです。
行動経済学者たちは、「爬虫類脳」と「哺乳類脳」で処理されるタスクを「システム1」。
一方で、「人間脳」で処理されるタスクを「システム2」と呼んでいます。
日常会話はどこを使ってる?
さて、通常私達は友人や職場の同僚や取引先の人と会話をしています。
このときに使っているのはどの部分でしょう?
実は、以前このことを別のエントリで書いたことがあります。
英会話は2つの脳を使ってる – 語学は2つのモードで獲得している
基本、母国語は訓練を通じて完全に習慣化した言語です。
したがって、余程高度な会話や自分のアウェイのトピックでの会話をすることがない時は、ほぼ動物脳でもある「爬虫類脳」と「哺乳類脳」側、すなわちシステム1で処理されています。
システム1は脳が暴飲暴食するのを防ぐためにルーティン化したタスクを受け持っています。したがって省エネで脳への負荷は少ないです。
ズーム会議が疲れるわけ
一方で、ズーム会議はどうでしょう?
確かに日本語で話しているかもしれませんが、普段、物理的に人が目の前にいるときのように、目の動き、顔の表情、声のトーン、はたまた、ボディランゲージなどを生で察知することができません。
上記のような処理は思いっきり動物脳側で処理するタスクなのです。
ですが、ズームですと常に見えるのは2次元的な人間の動きと音声のみ。
つまり、「人間脳」でもあるシステム2がフル稼働した状態で会話をしていることになります。
そして、「人間脳」の特徴。
それはめちゃくちゃ暴飲暴食なことです。
ルーティン化されていないタスクを処理するのが人間脳の役目。
普段ですと、難しい数学の式を解いたり、母国語以外の外国語を話すときに使う場所です。
パソコンで言うとCPUがフル稼働して熱くなってる状態です。
多くの人は気づかないうちに母国語のコミュニケーションは省エネモードで処理できるようになっています。仕事のような複雑系のトピックもはじめは人間脳(システム2)で処理してますが、ルーティン化を通じてシステム1で処理するので脳への負荷はす少ないのです。
それが、ズーム会議は画面に集中して処理するためシステム2をフル稼働することを要求しちゃうということですかね。
そうなると、慣れない英語のレッスンを受けている時の生徒さんと同じようなことが脳で起きていると言えるでしょう。
大山俊輔
PS: 先程の「爬虫類脳」「哺乳類脳」「人間脳」の概念は1960年代にアメリカ国立精神保健研究所ポール・マクリーン博士が作ったモデルです。当初、ダーウィンの進化論とも合致することから、かなり引用されましたが現在は反論も数多く出てきています。ただ、脳の全体的な概念を理解するためにわかりやすいため引用しています。