大山俊輔
引き続き休業中なので銀行と借り入れの話を進めたり、持続化給付金や特別定額給付金のマニュアル(英語版)を作ったり、はたまた家賃の減額陳情をお願いしたりしている5月中旬の私です。で、そんな仕事しながら思ったんです。
今回ほど国の財政政策がダイレクトに国民のお財布にわかりやすく移動する出来事ってないよなぁ。
って。
そう。このコロナ騒動から補正予算~定額給付までの出来事が証明したこと。
それは、政府の借金というのは貨幣発行と同義語である。
このことではないでしょうか?
今まで、貨幣に対して多くの誤解が私達日本国民、政策当局者の間であったことで日本はデフレ脱却から今もなお遠い道のりを歩んでいます。
今こそ正しく貨幣を理解しておかないと、大盤振る舞いしたんだから、と増税派が声を増してしまい日本は失われた30年ならぬ失われた50年、60年を歩み中心国に転落してしまう可能性だってありえます。
実際、すでにこんな人事も通ってます。
ヤバい…!マジで #日本終了のお知らせ になりそうだ…
新型コロナ諮問委に起用が内定した経済専門家
・小林慶一郎
「政府の借金が増え続けることを許容しても消費税率25%程度は必要」「オオカミ少年と言われても財政危機の本を毎年出す」
・竹森俊平
景気が不透明でも消費増税を断行するよう主張— 宮崎タケシ (@MIYAZAKI_Takesh) May 11, 2020
(この小林さんの出されている『日本経済の罠』という本、なんとなくそれっぽい本なので私も大学卒業したての時この本で経済わかった気になってたことがあります(笑))。
この定額給付騒動。
一人一人の個人が財政政策の当事者となる実に貴重な出来事です。
もらえるのはもちろん嬉しいとして、この出来事を通じて正しく貨幣を理解するチャンスなのではと思いました。
目次
誤解?プロパガンダ?
京都大学の藤井聡教授がこんなツイートをされていました。
土居丈朗 という有名な緊縮派の経済学者が10万給付で財政破綻、バカかと痛烈批判。この期に及んでカネがもったいないから民を放置せよと・・財務省にのみ寄り添うこうした輩のせいで国民が今死にかけているのです・・・.
絶対に、許せません。#御用学者 #反緊縮 #緊縮https://t.co/lhPPM1MLgs
— 藤井聡 (@SF_SatoshiFujii) April 21, 2020
慶応大学の土居丈朗教授といえば過去2度に渡り消費増税に増税に大いに貢献された方です。
そんな方からすると、今回の定額給付金の補正予算が通ったことは悔しかったことでしょう(笑)。
悔しいのはいいとして、正しいかどうかが大事ですよね。
土居教授はじめ、多くの経済学者さんや、財務省の官僚の方はこう言います。
・ 今は、国民の預金があるおかげで維持できているがそんなことは続かない(ワニの口が~!!)。
・ だから増税ですよ、増税。
はい、このホップステップジャンプです。
多少パターン変わるけどこれですよね。
ですが、この前提だと不思議なことがあります。
では、その国民の預金ってどこからきたの?
この素朴な疑問に答えていませんよね。
お金とは降ってわいたのでしょうか?それとも、海外から稼いだのでしょうか?はたまた、かつて政府や日銀が刷ったものだけがお金なのでしょうか?
いずれにせよ言えるのは、国家予算の執行はこうした市中にあるお金を租税を通じて集めて行っている、というロジックなのだと思われます。
給付金が証明したこと
ですが、今回の定額給付金。
このお金はどこから出てきて私達の口座に振り込まれるのでしょうか?
はてさて、過去に消費増税でうちの会社の払ったお金からでしょうか(笑)?
だったら、土居教授に私達にもお礼が来るはずです。
でも、違いますよね。
国債を発行してそれを銀行が引き受けます。
その銀行はお金をどのようにやりくりしているのでしょうか?
先程の土居教授の考え方を当てはめちゃうとこうなります。
↓
・ それを銀行が引き受ける
(引受の原資となるお金は私達の預金)
でも、そうじゃないんですよね。
実際にはこういうオペレーションを行っています。
① 銀行が国債を購入する=銀行保有の日銀当座預金残高から政府の日銀当座預金勘定へ振り替える
② 政府が支出する=企業や個人に対して小切手で支払いを行う
③ 企業(個人)は取引銀行に小切手を持ち込み代金取り立てを依頼する
④ 銀行は小切手相当額を企業(個人)の口座に記帳する
(=信用創造:貨幣が生み出される)
⑤ 政府保有の日銀当座預金残高が銀行の日銀当座預金勘定に振り返られる(日銀当座預金が戻る)
いかがでしょうか?
今回の定額給付金の10万円ですが、4月の補正予算25.7兆円のうち13兆円程度がこのプロセスで私達の預金口座に振り込まれるはずです。
仮に日本在住の人口1億3000万人だとすると、13兆円(1.3億人×10万円)の予算をそれぞれの個人が②~④のことを行うことでそれぞれの預金口座に10万円増えるんです。
ん?
ということは、政府が行った国債発行はすなわち民間の預金口座(預金通貨)の増加にダイレクトに繋がってますよね。
土居教授が言ってることと真逆のことが起きているんです。
(厳密には、実際の国債発行に時間がかかるので政府短期証券などで対応する)
現代社会における貨幣とは
「貨幣」というのが金や銀のように目に見えるものと連動していた時代と今は違います。現代の「貨幣」というのは「現金」(現金通貨)と「預金」(預金通貨)の2種類のことを言います。確かに、大学でもマネーサプライ(マネーストック)はM2+CDなんて習ったのをうっすら覚えています。
そして、その貨幣全体の8割以上は預金通貨なのです。
預金通貨は銀行が貸し出しを行うことで増えます。なお、その時に銀行がやることは、借り手の預金口座に金額を記帳する(自行のバランスシートの資産の部には貸し出しと記帳する)だけです。決して、誰か他の人の預金を引っ張ってきて貸してるわけではないのです。
これは、政府の国債発行にも同じことが言えます。
[追記:中学公民でも習ってるんですね。すっかり私はそんなこと忘れてました(笑)]
金融政策とは
この視点で考えると従来の金融緩和(買いオペ)が増やすことができる預金とは私達がイメージしている預金とは異なりましょね。つまり、日本銀行は各金融機関が保有している既発の国債を買い取ります。そして、買い取った代金をその金融機関が日銀にもっている当座預金残高を増やします。
これが金融緩和です。
となると、ここで増える預金というのは銀行が保有する日銀当座預金残高ですよね。
確かに、買いオペを通じてマネタリーベース(現金通貨と準備預金の合計)は増えます。実際、マネタリーベースは別名は”Central Bank Money”つまり中央銀行通貨です。銀行はそのマネタリーベースの増加を裏付けに貸し出しを増やす(貨幣乗数によるマネーストックの増加)。
その結果、景気が良くなる。
これが一般的な金融緩和を通じた景気対策です。
ただ、今のような極端な需要が収縮している状況下でこのオペレーションでは、銀行は貸し出しを増やしませんよね。単に日銀にあるその銀行の当座預金残高が増えちゃうだけです。
マネーストックが増えればマネタリーベースも増えるというのは好景気・不景気関係なくイメージできます。一方で、マネタリーベースを増やしても、預金通貨であるマネーストックが増えるとは限らないのです。
正しい貨幣観を持てば世の中の見方が変わる
いかがでしたでしょう?
・ すなわち、「貨幣を創造する」=「負債を増やす」。
こう考えるとすべての世界観が変わりますよね。
そのことを、今回の補正予算と定額給付金は私達に証明してくれました。
そのように捉えると、従来「金融政策」と「財政政策」という議論があって、この中でどちらを重視した政策をするかで内輪もめをするような人たちも多くいらっしゃったようです。
でも、上記の見方で世界を見直してみると、
という流れから財政政策そのものが貨幣供給量を増やす金融政策として機能しているという言い方もできるのではないでしょうか?デフレを脱却するためには、貨幣供給量の拡大が必要であるから金融政策だ、とう議論ですがこれも増やすのが日銀当座預金(マネタリーベース)なのか預金通貨(マネーストック)でもある銀行預金なのかによって、全く異なる議論になりますよね。
従来は、財政政策というと公共投資など特定の企業向けのオペレーションのイメージが強かったためネガティブに捉えられていたかもしれませんが、今回の定額給付金を通じて国民である私達が正しく政府の負債と貨幣の関係を見つめ直すチャンスになるのではないでしょうか?
そして、増税すれば当然発行していた預金通貨を減らすということになります。
それが意味するのは、当然、貨幣供給量(マネーストック)の減少であり、景気悪化によるデフレ化であることもイメージできますよね。
うーん。
今回の定額給付金が日本人の目を覚まさせるキッカケになることを祈っています。
大山俊輔
PS:YouTubeでも同じこと話してみました