MBA生必読の書として名高いポーターの『競争戦略論』と『競争優位の戦略』。
両書はどんな人におすすめで、両書を読むとどんな役立ちがあるのか?をここでは解説します。
結論からいうと、あなたがハーバードMBAをモデルにしたビジネススクール(国内MBAを含む)に進学予定なら、両書は必読の書といえます。
5Forcesやバリューチェーンといったフレームワークが生まれた背景を詳しく知ることができます。
この記事ではマイケル・ポーターが提唱する
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- 5Force分析
- バリューチェン分析
を分かりやすく解説していますので、お付き合いください。
目次
マイケル・ポーターが説く競争戦略の本質
マイケル・ポーターは、1947年生まれのアメリカの経営学者です。
ハーバードMBAの教授で、その学説はハーバードMBAを範とする「正統派MBA教育」の根幹をなします。
ポーターの学説を経営学説史からみると
- 1960年代 戦略計画学派
- 1970年代 創発戦略学派
- 1980年代 ポジショニング・ビュー
- 1990年代 リソース・ベースド・ビュー
のうち、ポジショニング・ビューに属します。
ポジショニング・ビューは、企業を取り巻く「環境」と「機会」に注目した学派です。
戦略の本質とは何でしょう?
ポーターは『競争戦略論』において、戦略の本質を「儲かりやすい業界でより優位なポジションをとること」と定義しました。
ある業界が「儲かりやすいか?」を判定するために、ポーターが発明したフレームワークが5Forces分析です。
5Forces分析は「PEST ⇒ 5Forces ⇒ 3C ⇒ 4P」のマーケティング一巡のうち、2番目の工程にあたります。
そして、ある業界で企業がとりうる戦略は
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
の3つである、と説きました。
『競争戦略論』における3つの競争戦略
3つの競争戦略について、ハンバーガー業界を例にとって説明しましょう。
1つ目のコストリーダーシップ戦略は「規模の経済」と「経験曲線」により、競合に対してコスト面で優位に立つことです。
マクドナルドは、売上3,000億円(日本国内)の圧倒的な企業規模により、ハンバーガーを安く大量につくることができます。
これが規模の経済です。
また、創業1955年のマクドナルドは、その長い歴史を通じて、調理はもちろん、流通・広告・出店のノウハウを大量に蓄積しています。
これが経験曲線です。
ポーターは、規模の経済と経験曲線によって実現されるコストリーダーシップ戦略こそが、競争戦略の王道であるとしました。
2つ目の差別化戦略は、首位企業とは異なる商品・サービスを提供することです。
この差別化戦略には、「模倣」と「同質化」によって無力化されるという決定的な弱点があります。
たとえば、モスバーガーが健康志向のハンバーガーを発売しても、すぐにマクドナルドに追随されてしまう、といった具合です。
差別化戦略を上手く機能させるには、たとえば超高級ハンバーガーや鯨肉バーガーのように、リーダーのマクドナルドが「マネできない」「あえてマネしようとは思わない」ものでなくてはなりません。
3つ目の集中戦略は、せまい分野でナンバーワン企業を目指すことです。
たとえば、明治大学前の名物おばちゃんが切り盛りするハンバーガー屋、といったものがその例です。
学生からも教授からも愛される肝っ玉おばちゃんには、さすがのドナルドもたじたじでしょう。
これら3つの戦略は両立しえない、とポーターは指摘します。
ですが、仮にもしも「有機レタス使用の格安バーガー」といった、2つの戦略の長所を兼ね備えた商品を提供できたなら、まぎれもない真の優位性を獲得できるわけですから、是非ともそのようなポジションを狙いたいところです。
マイケル・ポーターの5Forces分析とは?
次に、ある業界が「もうかりやすいか?」を判定するために、ポーターが発明した画期的なフレームワーク=5Forces分析について説明しましょう。
5Forces分析では、業界内で働く5つの力(Force)に着目します。
具体的には
- 新規参入業者
- 買い手
- 売り手
- 代替品
- 業界内の競合他社
の5つです。
「マクドナルドから見たハンバーガー業界」であれば、5つのフォースは
カリフォルニア発のプレミアムバーガー『カールスジュニア』など
◆買い手
一般大衆
◆売り手
食肉業者・小麦生産者など
◆代替品
牛丼・ラーメンなどの大衆食、コンビニのサンドイッチなど
◆業界内の競合他社
モスバーガーやロッテリアなど
となります。
そして、5つフォースの大きさを評価します。
日本での店舗数はマクドナルド3,000店に対し、カールスジュニア7店のみ。
◆買い手の交渉力⇒【中】
飽きっぽく移り気な一般大衆に対し強い交渉力を持つとはいいがたい。
◆売り手の交渉力⇒【小】
仕入規模の大きなマクドナルドは、食肉業者・小麦生産者に対して強い交渉力を持つため、イージーな相手といえる。
◆代替品の脅威⇒【大】
有力な代替品は多く、広範な戦線を展開せざるをえない。
◆競合他社との敵対関係⇒【中】
モスバーガー1,250店、ロッテリア350店で、マクドナルドはガリバーとはいいがたいが、市場規模がなおも拡大中のため、競争は激しくない。
フォースの大きさ【大】【中】【小】の順に対策を講じていけば、ビジネスの「土俵」を自分にとって都合よくつくり変える作業が、より効率的になります。
「マクドナルドから見たハンバーガー業界」であれば、代替品の脅威に対する対策が最優先事項です。
5Forces分析は、ある業界が「もうかりやすいか?」の判定だけでなく「5つフォースのどこから手を付けるべきか?」を決めるためのツールとしての役立ちもあるのです。
マイケル・ポーターのバリューチェーン分析とは?
バリューチェーンは『競争戦略論』の実践編である『競争優位の戦略』で提唱されたフレームワークです。
たとえば、ハンバーガーのバンズは、小麦粉と卵、イースト菌をこねて、発酵させ、竈で焼く‥‥そうした一連の作業によって、次第に価値が積み上げられていきます。
その過程がバリューチェーンなのです。
企業活動におけるバリューチェーンの基本形は、
- 購買物流
- 製造
- 出荷物流
- 販売・マーケティング
- サービス
- インフラストラクチャ
- 人的資源管理
- 技術開発
- 調達
に区分されます。
その役立ちは
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- 視野狭小に陥りがちな戦略の矯正
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- 自社分析の掘り下げによる強みの再確認
の2つがあります。
バリューチェーンを見渡せば、マクドナルドであれば
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- 販売:デリバリー網の強化
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- 調達:有機野菜栽培の内製化
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- 人的資源管理:1on1の導入
といった改善の糸口が見えてきます。
まとめ
5Forces分析とバリューチェーン、『競争戦略論』と『競争優位の戦略』、およびハーバードMBAは、分析対象としてアメリカの巨大企業を想定しています。
なので、日本の中小企業経営者や、独立起業を考えている人にとっては、使いづらい面があることもいなめません。
しかし、一工夫してやれば、どんな規模の企業にも、どんな種類の業界にも適用できるのが、ポーター経営学の奥深さです。
たとえば、5Forces分析を「マクドナルドから見たハンバーガー業界」ではなく「明治大学前のハンバーガー屋のおばちゃんから見たランチ業界」という視点から行ったとしましょう。
売っているのは同じハンバーガーでもまったくちがった景色が見えてきます。
「明治大学前のハンバーガー屋のおばちゃんから見たランチ業界」であれば、5つのフォースは
駅前に新しくできた松屋
◆買い手
学生・教授
◆売り手
食材業者
◆代替品
昼は食べない選択肢
◆業界内の競合他社
学食、学生街の定食屋、チェーン店
となります。
お気づきになられたとおり、5Forces分析は「業界の定義」がキモです。
業界の定義次第で、分析内容も分析結果もまったく変わってきます。
最後に、マイケル・ポーターについて分かりやすくまとめている書籍として、平野敦士 著『カール教授が女子高生にハーバードのビジネス理論を説明してみた』をおすすめします。
ポーターを筆頭とするハーバード学派の経営理論が順を追って説明されています。