世界恐慌、チャイナショック、リーマンショック、そして2020年のコロナショック…人類はこれまで、数多くの経済危機を、やはり経済の力で乗り越えてきました。
このような危機的状況で活躍するのが、経済学者たちです。彼らの叡智を何とか政策に活かそうと、時の為政者たちは、古今東西を問わず経済学者にアドバイスを求めたりもします。
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本記事では、アメリカの経済学者である、ミルトン・フリードマンについて解説します。フリードマンといえば『資本主義と自由』『選択の自由』という代表的著書がありますが、経済学書としてだけではなく哲学・思想書として読んで見る価値もあります。まずは、フリードマンとはどのような人なのかを理解し、その後、代表的著でどのような主張をしてきたのかについても解説します。
サイト管理人:大山俊輔
新型コロナウイルスが猛威を振るう現在、「明日が見えない」状態にあるのは誰もが同じだと思います。こんな危機的状況だからこそ、ノーベル経済学賞を獲るほど優秀な学者の頭の中を覗いてみてはいかがですか?
目次
ミルトン・フリードマンってどんな人?
「アダム・スミスとかマルクスは、名前は聞いたことあるけど、ミルトン・フリードマンってよく知らないなあ…」という方は多いのはないでしょうか。この章では、ミルトン・フリードマンの生涯と、「ミルトン・フリードマンと言えばこれ!」というものを紹介していきます。
出自
ニューヨーク生まれ。ハンガリー東部から移住してきたユダヤ系移民の子として生まれています。ちなみに2006年没。意外と最近の人です。これは推測ですが、歴史上お金持ちが多いユダヤ系移民の子という出自と、「とにかく市場に任せておけば金回りは安定する!(あとで詳しく説明します)」という彼の考え方は、どこか繋がっているように思えますね。
もしかしたらお父さんの影響もあるのかもしれません。
サイト管理人:大山俊輔
学歴
1927年 高校を15歳で卒業。8歳の時に経験した世界恐慌の惨状が原体験となり、シカゴ大学で経済を専攻、修士号を取得。その後、コロンビア大学で博士号も取得します。
職歴
コロンビア大学、連邦政府に勤めた後、シカゴ大学の教授として教鞭を振るいます。その他、チリや中国など世界各国を訪問し、政策助言を行ったことでも名高い方です。多くの学者にありがちな「机上の空論」的なスタイルをよしとせず、行動に移している点は素敵ですね。ちなみに1982年から1986年には日本銀行の顧問を務めていました。
サイト管理人:大山俊輔
受賞歴
1976年 ノーベル経済学賞を受賞。「中央銀行が発行する貨幣の量が、景気に大きな影響を与える」というマネタリズムの考え方を提唱したことが評価されました。
しかし、受賞が決まった当初は、ノーベル賞そのものや運営委員会を痛烈に批判。受賞式の際には、スウェーデンでフリードマンの受賞に反対する抗議デモが起きたそうです。この抗議デモに対し、「ナチズムのようで、鼻が腐りそうだ」と、多くの「同胞」が虐殺されたナチス・ドイツになぞらえて痛烈に批判しています。
ミルトン・フリードマンと言えばこれ!根底を流れる考え方
「一切の規制、つまり政府による介入のない自由主義経済」を意味する新自由主義を表明しました。
「政府が積極的に市場に介入し、公共政策で基盤を整えることが、経済の安定にとって重要である」というケインズ主義と真逆の考え方です。その徹底ぶりはすさまじく、「国主導の社会保障や福祉は不要、学校も民営化して競争しなさい、市場に任せておけばいいんだ。」そんな数々の提案をしています。ただし、「国防だけは政府がちゃんとやらないと。クレムリン(旧ソ連のこと)が攻めてくるかもしれないからな。あとは中央銀行だけは市場に任せてはだめだ。貨幣供給量は景気に大きな影響を与えるからな」という考えも同時に持っています。
「筋の通った自由主義者は、けっして無政府主義者ではない」という象徴的な言葉を残しています。
サイト管理人:大山俊輔
『資本主義と自由』『選択の自由』とはどのような時期に書かれた書籍なのか?
『資本主義と自由』について
初年度版は1962年に刊行しました。当時は世界が「二分」されていた時代。アメリカ率いる資本主義陣営と、旧ソ連率いる社会主義陣営に分かれていました。今でこそロシアや中国等かつての社会主義大国が資本主義に移行しておりますが、当時は「どちらの『主義』が正しいのか」ということは誰にも分りませんでした。互いの成果を誇示するかのように、米ソ双方が核開発に力を入れるなど、世界は緊張感に包まれておりました。
そのような時代背景の中、アメリカ生まれのミルトン・フリードマンは、資本主義の正当性示しつつ、「これまでのように政府が介入しすぎると多くの失敗が引き起こされますよ」ということを提唱するために、本書を出版しました。
『選択の自由』について
初年度版は1980年に刊行しました。この本は基本的に先述の『資本主義と自由』をさらに深堀して詳細に書いた本です。当時の時代背景は、依然として冷戦状態だったことに加え、1970年代のアメリカ政府の様々な失敗(スタグフレーションという、インフレなのに景気が悪いという状況。失業率も高く、多くの自殺者が出た)がありました。
そのような中、再度新自由主義の理論を提唱すべく、出された本と言えます。
『資本主義と自由』『選択の自由』はどんな人におすすめの本?
戦後のアメリカの歴史を知りたい人
基本的に両著とも、「アメリカ政府は第二次大戦後こんなことをしてきた。その結果、こんな悪いことが起きた。私の考える解決策はこういうものだ」という枠組みで書かれています。
つまり、対戦後にアメリカが歩んできた歴史、アメリカ政府が行ってきた政策等をざっと知ることができます。
経済政策に興味がある人
過激な言動で忘れがちですが、ミルトン・フリードマンの肩書は「経済学者」です。
それも、ノーベル経済学賞を受賞するような「超」のつく優秀な。政府による市場への積極介入をよしとするケインズ学派とは一線を画し、一部を除いて市場に一切をゆだねるという経済理論は一見の価値があります。経済学というと難解な数式が出てくるイメージがあるかもしれませんが、そのようなものは一切ありません。平易、とまでは言いませんが分かりやすい表現で書かれているので、そんなに読むのにも苦労はしません。(村井章子さんの翻訳したものがものすごく読みやすいです。ここまで美しく訳せるものかと感動すら覚えます)
金融政策に興味がある人
フリードマンは、「マネタリズム」の総帥と言われています。中央銀行(日本でいう日本銀行)が市場に供給する貨幣の量の増減が景気にどのくらい影響を与えるのか、スタグフレーションの際には何をすればよいか、そのようなことが書かれています。ちなみに、元アメリカ経済学会会長のF・モジリア―ニは、「われわれはみなマネタリストだ」という言葉をのこしています。「黒田バズーカは果たして正しかったのか」「そういえば今住宅ローンの金利めちゃくちゃ安いな…今後高くなる可能性はあるのかな」そんなことを少しでも考えたことのある方、これらの現象の源流はフリードマンです。
一見の価値ありですね。
サイト管理人:大山俊輔
『資本主義と自由』『選択の自由』の要約
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市場への介入について
『資本主義と自由』は、「政府は市場に部分的にしか介入すべきではない。ほら、今までのアメリカを見てごらん。政府が要らない規制を設けたりした、つまり市場に介入しすぎて失敗した例がたくさんあるだろう。市場に任せておくのが、経済の発展にとって一番有効だよ」ということが書いてあります。
政府の施策の最大の欠陥は、「公共の利益」という画一的な価値観を押し付けようとするところだ。自己の価値観に従って生きようとする個人からの反発に遭ってしまう。政府があまり介入しなかったアメリカの大衆文化の目覚ましい進歩を見てほしい。ここに働いた「見えざる手」がもたらす力は、「見える手」がもたらす退歩に打ち勝っているではないか。だから政府は、国防(ソ連の脅威ですね)と中央銀行の貨幣供給量のコントロールという一部の業務を除き、市場に介入すべきではない、そんな小さな政府がベストである。このような主張が書かれた本です。
『選択の自由』も基本的な主張は同じですが、先に述べた通り、1970年代の第10章「流れは変わり始めた」で、アメリカ全土の反税運動による見られるように、「大きな政府」への脅威が世界中で認識されるようになった、さらなる自由を実現するためには、具体的に貿易や税金・免許制度の項目を変更すればよい、という終わり方をしています。
まさにフリードマンの考える「大きな政府」の弊害が具現化したような流れですね。
サイト管理人:大山俊輔
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読後かんがえたこと
歴史的に「商売がうまく、金持ちが多い、しかし迫害の対象になってきた」ユダヤの出自。「麻薬の合法化」までを提唱してしまうような、過激だが一貫した言動。「象牙の塔」にこもる経済学者たちとは違い、各国にアドバイザーとして赴く行動力。そんなアンチもファンも多いフリードマンの代表作を読ませてもらいましたが、私は彼の意見におおむね賛成です。
賛成できない部分
まず、賛成できない部分について。年金の強制加入に反対する理論にはどうかなぁと思いました。フリードマンいわく、「老後のためにお金を貯めず、今を享楽的に生きることを選ぶ自由を、誰が止められようか」という考えです。「そんなの大人なんだからわかるだろ、自己責任だよ」という、いささか乱暴なニュアンスすら感じます。強制的な国民年金徴収を廃止したら予想される、高齢者の犯罪や孤独死・病死。それらを上回るほどのメリットは見当たらないと思います。
賛成できる部分
しかし、大いに賛成できる部分もあります。それは「学校の民営化」です。思い出してみてください。教育に情熱を持たず、学力を伸ばすことにも人間力を伸ばすことにも興味のない、ただの「税金泥棒」のような教師、あなたの母校にもいませんでしたか?過激かもしれませんが、学校教育の完全民営化が実現されれば、教師の給与は上がり、教師は人気職になり、優秀人材が増え、ダメ教師は淘汰されていきます。教育の質は上がり、若い世代がどんどん育っていきます。
このように、一部「弱者」を切り捨てるような見方もできますが、それらを差し引いても世界全体にとってメリットの大きな考え方なのではないかと思います。仮に政府が弱者を見捨てたように見えても、国の規制から離れてもっと強くなった「市場」が、弱者を救う仕組みを新たに作っていく、そんな風にポジティブに考えることもできるのではないでしょうか。
新自由主義との関わり
フリードマンというと「新自由主義」のドン、という漠然としたイメージがあります。
過去30年、世界、なかでも先進国では貧富の差が拡大してその原因が新自由主義とグローバル化であるという主張がなされています。新自由主義批判は、左翼系の方から保守系の方まで行われていますが、「新自由主義って何?」あるいは「新自由主義のドンことフリードマンってどんな人だったの?」といった疑問を持つ人は少ないのではないでしょうか。
確かに、過去30年の世界的な経済発展は発展途上国の多くを中進国に押し上げることに貢献しましたが、その成長の中で犠牲になったのは数多くの先進国の中間層です。この歪が、トランプ現象、ブレグジットを引き起こしたという文脈で見ていくと確かに理解しやすいところです。また、日本では就職氷河期世代を生み出し、気づけば非正規雇用比率も40%に迫る状況です。
一方で、フリードマンの主張がなされたのは、第二次大戦後、東西陣営に別れて西側諸国の経済成長が一段落した後、どのように当時問題であったインフレ率の高騰と経済成長のバランスを取っていくかというテーマに対しての解決処方です。どちらかといえば、貨幣供給量の増加を通じて、政府の介入を減らして民間の生産力を上げていく、というサプライサイドの経済学だと言えるでしょう。
それぞれの経済学にはその時代背景があってそれを理解せずに今の時代背景と視点だけで見ると、評価を誤るのかもしれません。
サイト管理人:大山俊輔
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まとめ
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。結びとして、『資本主義と自由』の扉に書かれていた象徴的なフリードマンの言葉を紹介してフリードマンの解説を終えたいと思います。
ジャネット、デービッド、そして同時代の若者たちよ。君たちは自由のたいまつを、引き継がなければならない。
shota&大山俊輔