大山俊輔
当社のマネジャーが朝礼で体験レッスンやレベルチェックなどのカウンセリングについてこんなことをジュニアスタッフに伝えていました。
「皆さん、あれこれ気になることはあると思いますが、体験レッスン(レベルチェックレッスン)の間は自分が担当しているお客様だけのことを考えましょう。」
「また、新人さんも先輩がお客様対応しているときは極力、お客様に集中できるようにしましょう。」
おおー。
まさに、マルチタスクの非推奨宣言。
ということで、私も感心して聞いてました。
とはいえ、ジュニアスタッフからすれば、「いろんな作業してる方がいいんじゃないの?」
と思っている人も多いと思うので、何故マルチタスクがなぜ悪いのかを補足しておいたほうが良いかなと思っていました。
世の中は手先が器用なこと。
多動力こそがもてはやされるご時世。
そんな時に、シングルタスク推奨っていうのはあまり高感度が高くありません。
そもそも私達の属する英会話スクール業界の日本人スタッフの仕事というのは、他のサービス業と同じく、電話がなったり、見積もり作ったり、ブログ書いたり、目の前のお客様から質問があったり、と業態上、マルチタスクになりがちです。そこで、今回のエントリではマルチタスクをオススメしない理由、そして、サービス業界で働く人がどのようにすればマルチタスクを減らすことができるのかについてまとめてみました。
YouTube動画でも解説入れました
目次
できる人はマルチタスクは嘘?
さて、一昔前のできる人のイメージってどんな感じでしたか?
こんな風に尋ねられると、
・ Aという仕事をしながら
・ Bという仕事も同時にこなして
・ 部下の世話もしながら
・ 上司にもちゃんと報告している
なんていうバブル期の走り回ってるサラリーマンのイメージが思い浮かぶ人もいるかもしれません。
ですが、ちょっと振り返ってその人が果たしてどれくらいの成果を残しているか。
ということを見てみると、意外としょぼかった、ということが研究からもわかっています。
一見、ながら作業だったりマルチタスクをしている人は走り回っていてできる人のイメージを持ってしまいますが、そのようなマルチタスクばかりしているとどうなってしまうのか?
それは「集中力」が失われます。
実際、優秀なエンジニアが多く集まるGoogleでは”Search inside Yourself”という脳科学とマインドフルネスを合体させた能力開発メソッドが開発されて、社員がこの研修を受けることを推奨されています。優秀な人ほど手先が器用なため、マルチタスクになりがちで、結果として全部中途半端。こうなるのを防ぎたいということです。
そもそも人類はマルチタスクができない
実際のところ、私達人類の脳はマルチタスキングができません。
では、一体、マルチタスキングをしてる人っぽい人の脳はどうなっているのでしょうか?
たとえば、私達の事例で言えばGoogle Chromeのブラウザを立ち上げながら、お客様へのメールを打ちながら、お見積りを作成し、そして、5分後にはじまるカウンセリングの準備をする、なんて感じのシチュエーションです。
一見、できる人!
という風に見えますが、実は、ばらばらで行うのではなく、1つ1つのこれらの業務を別々に片付けるほうが遥かに生産性は改善する、ということが研究でもわかっています。
実際、人間の脳というのは信じられないくらいの膨大なデータを記憶することができることがわかっています。
パソコンで言うと17.5TB、ギガバイトに変換すると17500GBもの容量とも言われています。
おそらく、iPhoneなどですと、128GBの容量のものを買う方が多いと思いますので、iPhoneに詰まってる情報137個分の記憶ボリュームです。
まったくイメージがつかない程の記憶を保持することができる一方で、作業処理能力が低いのも人間の脳の特徴です。
人間の脳というのはハードディスクが膨大だけどメモリのショボい一昔前のパソコン、という感じでしょうか。
保存することはできるけども、複数のアプリを立ち上げるとパンクしてしまって、パソコンが落ちてしまった、なんて経験をしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
あのイメージが人間の脳です。
マルチタスクの害悪:生産性を落として脳を疲れさせる
マルチタスクは生産性を落とします。
そして、脳を疲れさせてしまいます。
人間は1つのことしかできない(マルチタスクができない)
先程書いたように人間の脳は1つのことにしか集中することができません。
一見、マルチタスクを行っている人は、多くの作業を同時進行で行っているように見えますよね。
でも、実際のところ複数処理を行ってはおらず、それぞれのタスクを行き来して実行するような処理を脳は行っています。
実際、パソコン業務でマルチタスクをするときって、ブラウザのタブを言ったり来たり、ワードとエクセルを行ったり来たりしてますね。同じことが脳でも起きてしまっているのです。つまり、複数のシングルタスクを行ったり来たりすることで脳にはすごく負担がかかって疲れさせます。結果として、生産性を低下させることがわかっています。
スタンフォード大学のエヤル・オフィルによると、
「人間は実際、マルチタスクなどしていない。タスク・スイッチング(タスクの切り替え)をしているだけだ。」
と述べています。
そう考えると、一見、いろんなことをやってて「できる」と思ってる人も、「できてるように見えている」だけなのかもしれないですね。
生産性がガタ落ちする
実際、私達のスクールでも先輩社員と新人社員がシフトを組む時に営業などの成約率が落ちる傾向があることがわかっています。それは、どうしても新人さんからの質問が多かったり、一人でこなす業務が増えてしまう結果、望むか望まないかは別としてマルチタスクになってしまうからだと思われます。
ハーバード大学の研究によると、平均的な社員は1日に500回タスクを変えている。
一方で、生産性の高い社員はタスクを切り替える回数が極端に少ない。
こういうことがわかっているそうです。
実際、『Single Task』の著者デボラ・ザック氏によると、マルチタスクは生産性を40%低下させることが研究からも明らかになっているそうです。
だからこそ、ポモドーロ・テクニックなどが効果的だと言われるのです。
私も実践していますが、とても使えるテクニックですよ。
ポモドーロ・テクニックとは?生産性が劇的にアップするおすすめの仕事術
脳を疲れさせ収縮させる
また、ちょっと怖い話ですがマルチタスクをしていると脳が収縮しやすくなることもわかっています。
上記のザック氏の言葉を借りれば、私達が一見、マルチタスクと思っている行為は神経学的にいえばタスク・スイッチングと呼ぶそうです。つまり、複数のシングルタスクを行き来してるだけ、ということですね。
短期間でシングルタスクをスイッチしまくってしまうと、結果として脳がオーバーロードして灰白質(かいはくしつ)が収縮してしまうそうです。
つまり、疲れてしまう上に脳にも良くないということですね。
できる人はシングルタスクの積み上げをしている
ここまで読むと、マルチタスクは悪いんだ。
そう思う一方で、
「でも、自分の知ってる◯◯さんはマルチタスクをしていてしかも効率が良くデキル人だと思う」
なんて方も思いつくかもしれません。
結論から言うと、脳の構造的に本当のマルチタスクができる人は人口比で2%程度はいるそうです。
ですので、その人が2%の可能性はたしかにあります。
ですが、そんな2%の人があちこちにはいませんよね。
おそらくその人は一見いろんなことを達成していてパフォーマンスを出しているように見えますが、結論としては一つ一つのシングルタスクに鬼集中して片付けてから、次のシングルタスクをこなしている可能性が高いと思われます。仕事ができる人のパソコンのデスクトップはシンプルですよね。あれと似ていると思います。
多動力とマルチタスク
一昨年、堀江貴文さんの『多動力』という本がはやりました。
その影響で、あれもこれもやってる人がすごいと誤解している人も多いのではないでしょうか。
ですが、堀江さんが推奨していることはたくさんの打席に立つこと。
そして、たった打席ではシングルタスクで全力で取り組むことです。
実際に、別の書籍となりますがキングコングの西野さんとの対談本の「バカとつき合うな」(これまた挑発的なタイトルですが・・・)では、このように話しています。
IQがどんなに高くても、ひとつのことを考えるのに付随して、余計な不必要なことも考えてしまうから速度が出ないというタイプの人もいる。パソコンでいえば、メモリとかのスペックは高いのに、要らないアプリを常時たくさん立ち上げっぱなしだから、肝心のメイン作業のパフォーマンスが低い、みたいな。 それに対して、スペックはわからないけど、 デスクトップがシンプルで、そのつどメイン作業のアプリだけ立ち上げるからパフォーマンスが高いというタイプ。次々に仕事をこなしていくから、端からはマルチタスクで同時並行しているように見えるけど、マルチタスクではない。集中の対象が次々に入れ替わってるだけで、実は無駄がない。
これこそが、彼が読者に伝えたかった「多動力」でしょう。
もし、誤解してあれもこれも同時進行でマルチタスクしちゃってる人はコレを機会に修正しましょう。
最後に:サービス業界従事者にとってのマルチタスクとの付き合い方
さて、ここまで一般的なマルチタスクの話をしてきました。
でも、人によっては、
「え、でも、私はサービス業界にいるから、電話もなっちゃうし、レジも打たなきゃいけないし、接客もあるし・・・」
そう思う人も多いことでしょう。
私達の職場も同じです。
まぁ、電話が鳴ってるのに無視してしまうわけにはいきません。
いらっしゃったお客様がいるのに、無視しちゃったらまずいです。
ですので、コツとしてはこんなことを意識するとよいのではないでしょうか?
その1:仲間に「集中中」と宣言する
まず、お客様業務に集中すること。
そして社内業務や後日でも大丈夫な作業、はたまた、隣の同僚や部下には、
「今、集中中」
宣言をしちゃうのです。
そうすれば、とりあえず、業務に影響の大きいお客様関係の仕事に集中しやすくなります。
また、どうしても部下の面倒を見る必要などあることもあるでしょうが、
多店舗展開しているような会社でしたら、一時的に、質問などは別の店舗にしてもらうような対応もありでしょう。
電話なども、シングルタスクに集中する時間だけ許可をとって転送したり留守番電話にするのもありだと思います。
その2:なるべく複数アプリ、ブラウザの複数タブ立ち上げを減らす
次にマルチタスクの温床となる複数アプリの立ち上げ。
これは、極力減らすほうが良いでしょう。
中には10個くらいアプリが立ち上がってる人がいますが、そもそも、そんなにタスクはこなせない上にパソコンのメモリをう食ってパソコン自体も遅くなっちゃいますのですぐにやめましょう。
その3:超ルーティン化できた無意識系タスクはOK
さて、マルチタスクの悪害が出るのは意識を使う業務です。
つまり、行動経済で言うところのシステム2の領域(前頭前野など)を使う仕事です。
一方で、完全にルーティン化してしまって脳に負荷のかからない業務。
つまり、システム1の領域でひたすら処理できる業務であれば、多少はOKとも言えるでしょう。
代表的なのはジョギングしながら音楽を聴くこと。
走る時に右足、左足、と意識することはないですよね。だからこそ、走る+音楽を聴く業務ですが脳に負荷はあまりかかりません。
仕事で言えば、全く頭を使わずにできる業務ということになります。
あるとしたら、経費シートに糊をつけたりとかそんな業務です。
まとめ
いかがでしたでしょう?
マルチタスクってかっこよさそうで効率が悪いことがわかると、今日からシングルタスクに切り替える人も(うちの社内でも)増えてくれるかもしれません。
特に今の時代はスマホが手元にあるので、すぐ、業務をしたりしながらスマホを見ちゃいますがこれも立派なマルチタスクですよ!!
大山俊輔(ハビットマン)