大山俊輔ブログ ー 脳科学による習慣ハック・歴史・経済のサイト

日本をとりまく清算主義と歪んだ道徳感情

大山俊輔

こんにちは。大山俊輔です。

4月も後半に差し掛かってきました。
緊急事態宣言が出てはいますが、書類関係のやり取りは残っていますので、私も渋谷の街に定期的にでてきます。

しかしながら、ほとんどのお店が休業中です。

一方で、ニュースなどで吉祥寺や江ノ島に人が溢れているという話題がありました。今、ちょうど私は江ノ島におります。が、まったく人はいません。そして、お巡りさんが定期巡回してサーファーなどに注意を呼びかけています。

江ノ島もほとんどのお店が休業しています。
でも、ぽつぽつと開けてるお店もありますが、お巡りさんがうろうろしているので、お店の人も呼び込みをしにくいし、歩いている人も入りにくい雰囲気。

でも、一言だけ言わせてください。
私の知り合いの飲食店の経営者も仰ってましたよ。

「このままだと自己破産ですかね・・・」
「うちは、ランチだけ開けてますが、道を歩く人の視線に申し訳なくて・・・」

そうなんです。
リスクを取って商売をやってる人たちのみんな思ってること。

もうこの状況が続いたらもたないよ。
これです。

みんな別に開けたくて開けてるわけじゃないんです。
開けないと首くくらなきゃいけないから開けてるだけなんです。
(うちが閉めてるのは、うちの業界は開けても来ないから閉めてるというのが実際のところです。)

お巡りさんだって、自分の今月の給料が1/10になって住宅ローンが払えなくなったらどうしますか?難癖つけてでも働くことでしょう。

そう。今の日本は残念ながら分断されてるのです。

リスクを取っている人が追い込まれています。
そして、ネットカフェ難民はじめ弱い人が追い込まれています。

一方で、年金で安定している人、毎月の給料が今のところもらえている人。つまり、守られている人が一見正論に見える綺麗事で人々の耳目を集めています。清算主義です。でも待ってください。

実はこの状況は別に今回がはじめてではありません。

日本人の潔癖症がゆえか、深層心理の中でどこか受け入れてしまう清算主義。そして、他人への情操なき空気に支配された誤った道徳感情。

このことで、かつて昭和恐慌で日本は破滅の寸前まで落ち込みました。今学ぶべきは歴史の教訓であって、感情による支配ではないのではないでしょうか。

政府内の清算主義者たち

私が気になっているのは与党内の上層部に清算主義者たちが紛れ込んでいることです。

清算主義とは何でしょう?

「清算主義」(liquidationism)とは、資本主義社会において不況は不可避であり、むしろ、不況を通じて非効率な企業の倒産、統廃合やそれに伴う失業は必要であり、こうした淘汰を通じて新しい成長の種がまかれるという考え方です。

実際、自民党の安藤祐議員がとある番組でこのように言っていました。

今回、自民党内で「損失補償をしなければ中小企業は潰れますよ」と党幹部に進言したところ「これで持たない会社は潰すから」と言われた。

うーん。何というマッチョ主義。
霞が関のエリートさんや政治家はこういうの好きな人多いんです。

本人たちは毎月安定した給料もらってるからこんな子供の作文みたいなお遊びしちゃって悦に浸れるんでしょう。

ですが、淘汰される側はたまったものではありません。そして、理論的に清算主義はそこから新しい芽を産み出すどころかすべてを破壊し尽くしてしまうことは昭和恐慌の教訓からもわかっています。

昭和恐慌の時の清算主義者たち

今回のコロナショックに匹敵、あるいは、それ以上かもしれない経済危機がありました。それが、アメリカのウォール街から始まった1929年の大恐慌です。

このときも、日本、アメリカ、ドイツのような国では当初清算主義者が跋扈しました。

アメリカで代表的なのは、アンドリュー・メロンの
「労働者、株式、農民、不動産などを清算すべきである」

という言葉。まさに清算という言葉を本人も隠さずに使っています。

そして、日本では浜口雄幸首相の、
「明日伸びんがために、今日は縮むのであります。」

という言葉に代弁される清算主義が当初はやりました。濱口さんはプレゼン上手ということもあり、このキャッチコピーに多くの国民が乗って経済が大変なことになりました。

結果、濱口首相・井上準之助大蔵大臣の下で、割高な旧平価による金本位制への復帰が強行されました。これは、「企業の整理・淘汰を進めなければ経済停滞から脱出できないという清算主義」をベースとした政策です。しかし、普通に考えてこんなことをすれば、需要は激減しデフレを促進します。こうして、濱口内閣下のデフレ促進・緊縮政策は大失敗に終わり日本経済は奈落の底につき沈みました。

これが「昭和恐慌」です。

高橋是清の登場

高橋是清

しかし、ここで一人の天才が歴史の舞台に再登板しました。
首相経験もある高橋是清です。

1931年12月に誕生した犬養毅内閣のもとで、高橋是清は大蔵大臣に就任。
いわゆる「高橋財政」を実行しました。彼の政策はシンプル。

・ 金本位制の放棄
・ 緊縮財政の放棄
・ 赤字国債の日銀引受けによる超金融緩和政策

つまり、財政政策と金融政策をフル回転させたということです。
このパラダイムシフトにより日本は世界大恐慌を主要国で真っ先に脱却しました。ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』を発表したのが1936年です。高橋はケインズのデビュー前にこうした政策を実践したという点で、慧眼です。

政治家・官僚・メディアが清算主義が好きなわけ

次に私の仮設に入りますが、なぜ、政治家や官僚、そして、メディアが清算主義が好きなのかにつきまして。

うーん。

国家社会主義者が中に紛れ込んでるから、とか、隠れコミンテルンがいるとか言いたいところですが恐らくこの言葉が一番正しいと思います。

「なんかかっこいいから」

え、と思いますが多分私はこれが一番大きな理由だと思いますよ。
実際昭和恐慌でも、清算主義に傾いた議論をした人ってこんな人達です。

勝田卓次(野村證券経済調査部長→時事新報所長)
「大恐慌を大いに促進したいのです」
堀江帰一(慶応大学教授)
「我が国の経済社会に不景気を徹底し、不景気をして其最極点に上がらしめるために旧平価解禁をてこに金融および財政の引き締めを実行せよ」

まじ、クレージーですね(笑)。
でも濱口雄幸・井上準之助コンビはこの言葉を真に受けて経済を破壊してしまったのです。しかも、国民は当初熱狂的にこの2人を支持しました。

大阪毎日新聞に至っては、

「下る・下る物価 よいお正月ができるとほくそえむサラリーマン」

なんていう見出しで、金本位制復帰によるデフレを歓迎しています。いやいや、デフレですからサラリーマンの給料も下がりますって。アホかよ・・・(笑)。

大企業の経営者の「座右の銘」というと、必ず城山三郎先生の『男子の本懐』という本が登場します。この本は、濱口雄幸・井上準之助の二人を題材にしたというファンタジー小説なのですが、実態としてはマッチョ主義・清算主義で日本を奈落の底におとしたのです(大企業の社長さん、本は飾るためじゃなく読んで自分で考えるためにありますよ!)。

恥ずかしながら、私も昔かっこいいと思って読みましたが、昭和恐慌の歴史を調べていくうちに、こりゃないなぁと思いを改めた次第です。

実社会経験がない

清算主義者に代表される特徴はなにか。

  • 言葉の威勢が良い
  • 一見ストイックでかっこいい

こんなとこでしょうか。そして、こうした威勢のいいことを言う人に共通することがあります。それは、実社会経験がほとんどないことです。ホットドックプレスを読んで、「女なんてのは・・・」と息巻く中学生のようなもんです。

先程の勝田卓次、堀江帰一などもそうですよね。実際に借金をして、会社を作って人を雇ってなんどもピンチをくぐり抜けて・・・。こういう経験をしていない人に限って、清算主義が大好きです。自分は大丈夫ですから。

・ 受験勉強しかしてきてない。
・ 実社会でラーメン一つ売ったことない。
・ 周囲に苦労人がいない。
・ そのくせ、自分は毎月給料が安定して国から出る。

情操がない

上記のような甘やかされた環境で長らく過ごしていると、なんか自分が特別に思えてくるんでしょう。で、こんな言葉が出てきます。

「国民を甘やかすな」

いやいや。君が一番環境甘いからって(笑)。

先程紹介した、昭和恐慌を収束させた高橋是清さん。この人なんて首相になる前にアメリカで間違って奴隷契約結んでボロ雑巾のように使われちゃったり、官僚を辞めて突如ペルーで鉱山事業をはじめようとして失敗したり・・。自分自身、こういう経験があるからこそ、実際に苦労して経済を回している人の気持がわかるのです。

実際、アダム・スミスも代表的書籍『国富論』を上程する前に出した本は『道徳情操論』。経済における共感・同感としての”sympathy”の必要性を説かれています。そもそも、経済とは「経世済民」ですよね。同胞への”sympathy”があるからこそ、国民経済は成り立つのです。

甘えん坊の清算主義者はこうした経験も知識もないのに権力を持っているのがやっかいなところです。

もし、清算主義者が信長の野望をやったら・・・

信長の野望

信長の野望やったことありますか?
やったことがない方は三国志でもいいです。

コーエーの人気ゲームですがあのゲームで真っ先にやらなきゃいけないことって何でしょう?そう、戦争じゃありません。

国造りなんです。

・ 開墾して米の生産量を増やす(当時はお米が擬似的な通貨の役割も果たしていた(貨幣もあります))
・ 開墾するためには治水をする。
・ 領内での商取引を増やすために街づくりをする。
・ そして、今的に言うと政府紙幣の発行と同じ効果ですが金山開発をする。
・ こうして富国ができると兵隊を雇って隣国に攻め込む(笑)。

もし、清算主義者の人たちに信長の野望任せたらどうなるんでしょ?

農民を甘やかしては駄目だ。とかいって、そのまま放置して国はボロボロに。そして、町民は放っておけば淘汰していいところだけ生き残る!と信じて、街づくりもせず経済もボロボロに。そして、暴動が発生して隣国に攻め込まれて滅亡です。この人達なら、武田家や織田家を使っていたとしても私は姉小路家か神保家で滅ぼす自信ありますよ(笑)。

年金を安定してもらってるお年寄りの皆さん。
そして、今のところ給料が普通にでてるからと安心してるサラリーマンの皆さん。
また、同じように給料が減っていない公務員や政治家の皆さん。

清算主義の行き着くところはマクロ経済の破壊です。
本当に破壊してしまったら、あなた達の生活の安定の基盤も失われてしまうのです。

だからこそ、次は自分だと思ってしっかりと正しい経済政策に政府がかじを切り直すところまで一緒に頑張りましょ。国民はみんな仲間ですよ。

大山俊輔

PS:
YouTubeでも同じトピック話してみました。