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ピーター・ティール、エマニュエル・トッド、宮台真司・・・・経済・知の巨人がトランプの支持者となった背景と理由

ピーター・ティール、エマニュエル・トッド、宮台真司・・・・経済・知の巨人がトランプの支持者となった背景と理由

トランプ大統領。

彼ほど、強烈な個性を通じて世界中にファンとアンチを生み出す人は珍しいのではないでしょうか。しかし、一方で、彼ほど左右から誤解される人も珍しい。

2020年のアメリカ合衆国大統領選挙では、現時点(11月14日)ではバイデン大統領がほぼ勝利するだろう、という展開ですがまだ結論はでていません。

大山俊輔

本業は会社経営者。女性限定・初心者専門の英会話スクール b わたしの英会話を運営しています

私も数多くの外国人スタッフと共に仕事をする立場ですので、海外情勢は常にウォッチし、そして、配慮しますが、今回の大統領選挙ほど日本人としても気になる政治的イベントはありませんでした。これは、仕事上仕方のないことですが、日本人としては非常に嘆かわしいことです。

それは、結局のところ我らが日本がまだ独り立ちしていないから心のどこかで、アメリカの選挙に期待しているところがあることの裏返しだといえるでしょう。これは、日本が”protectrate”(保護領)に堕してしまった証でもあるからです。

さて、前回の大統領選では多くの予想を覆してトランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破って大統領になりました。その後、様々な議論が出てきましたが、私にとっては、今回の大統領選について興味をもつキッカケを与えてくれた人が3名います。

  • ピーター・ティール
  • エマニュエル・トッド
  • 宮台真司

この3人は、それぞれ、異なる視点から大統領選この構図を見ています。

ピーター・ティールはテクノロジーとグローバリズム。
エマニュエル・トッドは、リベラルの堕落。
宮台真司さんは急速すぎたグローバリズムの弊害の緩衝材としてのトランプ政権。

実は、この構図はブレグジットでも同じことが言えました。
そして、日本においても過去20年の経済失政とデフレ経済により分断が進んだ対立構造は、今後、国内でもアメリカ大統領選やブレグジットと同じような問題を引き起こす可能性があります。

なぜ、彼らはトランプ再戦を予想していただけでなく、期待していたのでしょうか。
ここに、マスコミが決して触れない今の世界を読み解く鍵があると思います

一般的なトランプ像と実態

まず、世間一般の人々が感じてきたトランプ大統領のイメージを考えてみましょう。

トランプ像の多くは、日米ともに多くのメディアで流布されてきたイメージを地上波しか見ない人々が作りあげてきたいわば「虚像」ともいるでしょう。

イメージ1:支持者は貧しい白人で教養がない

ラストベルトの衰退とトランプ現象

ラストベルトとは

まず、トランプ氏の支持層がラストベルトに代表されるブルーカラーの白人層が多いイメージです。ラストベルトとは直訳すれば、錆びついた工業地帯。ラストベルトは1980年代までのアメリカの工業社会を支えたエリアであり、かつてのアメリカの豊かな中産階級のイメージを体現するエリアでもありました。

しかし、その後、ソ連崩壊、中国の世界経済進出など、世界経済がより一体化しグローバル化することになると、このエリアの工場は海外に移転。多くの失業者と貧困層を生み出し社会問題化したエリアでもあります。

従来はラストベルトエリアは労働組合の強いエリアで民主党の支持基盤でした。しかし、民主党がこうした、経済の空洞化を推進する政策を進めることで徐々に支持者は離れて2016年の大統領選挙では多くの州がトランプ支持になりました。

実態

上記のトレンドをもとに、トランプ支持者は貧しく、無教養の白人工場労働者というイメージが人口に膾炙するのですが実際には、トランプ支持者はこうした人々だけではありませんでした。

中には、一般的に民主党支持が多いと言われる黒人、あるいは、IT・金融が強くリベラルが多いと言われるカリフォルニア、ニューヨーク州などの知識階級の中からも、このエントリで紹介するピーター・ティールのような大御所がトランプ支持をするなど、リベラルと言われる人々の中でも分裂があったのです。

イメージ2:自国優先的でグローバル社会を考えていない

メキシコ国境

次に、トランプ政権の自国優先的な数多くの発言です。

確かにメキシコとの国境の壁であったり、貿易協定などでは自国優先的な発言が目立ちます。ときには、その発言の矛先が日本や欧州諸国にくることもありました。

こうしたイメージから、トランプ氏が自国優先で世界のことを考えてないというイメージが拡がったのも理解できることではあります。

実態

世の中大事なのは、何を言ったかより何をやったのかです。
実際、海外の要人でトランプを支持する人の多くはそれぞれの国がそれぞれの国のまずは独り立ちを優先することを主張してきた人々です。

ナイジェル・ファラージナイジェル・ファラージ

その代表はイギリスのブレグジット党のナイジェル・ファラージ。
彼は、このコロナ禍でアメリカに渡航しトランプ氏の集会で演説まで行っています。

ブレグジット党はいわば、イギリスのための政党。
EUはブリュッセルの傲慢な官僚支配の軛からイギリスを解放することを謳った政党です。一見、イギリスファーストに見えるブレグジット党のファラージがトランプを支持したのはとてもシンプル。

世界を一体化するグローバリズムではなく、国と国がしっかりと「際」(きわみ)を持って節度ある付き合いをしようということこそが、ファラージの主張だったからです。つまり、一体化するのではなく違うものを違うものと尊重しあえる付き合いのほうが、それぞれの国民にとって幸せだ、という主張です。

だからこそ、ファラージはブリュッセルのEU本部には辛辣な言葉を浴びせますが、EU各国のひとりひとりの国民に対してはシンパを持っています。

イメージ3:攻撃的

次に一見、攻撃的に見えるトランプ氏の発言です。

北朝鮮の金正恩をロケットマンと呼んで茶化したり、中東外交でもイランとはすわ戦争か、と言われたりもしました。おそらく多くの人はここまでの彼の言動を見て攻撃的と思ったのではないでしょうか。

実態

私も商売人やってますし、行動経済学が大好きなのでわかりますが、トランプ氏の発言の多くはいわゆるディール外交です。その意図がどこにあるのかを見ていけば、彼が本当に攻撃的なのか、それとも戦争回避をするための方便だったのかがわかります。

そして、実態を見ていくと彼はこの4年間結果としてどの国とも戦争をしていません。むしろ、ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領のほうが紛争回数は多いくらいです。

戦争をほのめかして戦争を回避するのは外交上とても大事なテクニックです。むしろ、平和を方弁しながら武力介入することだってあるのです。

この世界の複雑奇怪な構造を理解するのはなかなか難しいものです。

世界をどのグラスを掛けて覗くかで見える世界が変わってくる

世界をどのグラスを掛けて覗くかで見える世界が変わってくる

では、トランプ氏のイメージと実態は別としてなぜ、ピーター・ティール、エマニュエル・トッド、宮台真司という一般的にはインテリ、ビジネスマンとしても大御所の人々が積極的ではないにせよ、トランプを支持したかについてかれらの発言から読み解いてみましょう。

トランプは何と戦っていたのか?

エスタブリッシュメントとその既得権益に引きずり込まれてしまった層。

エマニュエル・トッドが言っていますがトランプを理解するときに大事なのは、彼がこの4年間何と戦ってきたかについての洞察です。自国ファーストのファラージが異国であるアメリカ大統領選挙に応援演説にかけつけたのもこの構図をアメリカ国内に見ているからでしょう。

世界経済はこの20年、急速なグローバル化が進みました。
特に、中国がWTOに加盟して以来、彼の国は世界の工場と化し、先進国からは日本、アメリカを中心に多くの企業が進出しました。

一方で、先進国からは工場が撤退し雇用が激減しました。
かつて、中間層とも言われたブルーカラー層は、貧困層に転落する一方で一部の層が既得権益化します。トランプやファラージが指摘したのは、このトレンドをこれ以上放置すると、国がもう持たない、ということなんです。

EUではかつてのEC時代の理念は散逸し、ブリュッセルに集うEU官僚が加盟国の金融、財政政策から産業政策まで牛耳るようになりました。特に、工業力が高く輸出依存度が高いドイツにとっては、共通通貨はまさに事実上のマルク安。EU最大の恩恵を受ける国となります。一方で、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなどの地中海諸国は事実上の通貨高で、経済が困窮し失業率が増大します。

こうなると、ブリュッセルからの補助金などの差配にすがる構造が誕生します。
この構図はかってのソ連のノーメンクラツーラ(赤い貴族)と貧しい庶民との関係の国際版です。

同じことは、大小の差こそあれ先進諸国内でも誕生します。

グローバル化により急速に、工場が撤退して貧しくなるエリアや層と、恩恵を受けるエリアは一国内でも分断を生み出します。その仕組を生み出したのは、一見、リベラルで国際協調的な発言をしている人々とも重なります。

トッドはまさにこうした理念型のリベラル政治家、官僚こそが、(意図していたか偶然かは別として)搾取と支配の構造を生み出し、そして、対立を結果として煽ったのだと厳しく非難しました。

宮台真司の視点

宮台真司とトランプ現象

節度あるグローバル化(国際協調)VS刹那的グローバリズム

グローバル化という言葉はあらゆるシーンで使われますが、その定義は漠然と曖昧です。しっかりと、体系だった理解をするのは難しいものがあります。

そこで、少し視野を歴史に持っていくと今までも何度かグローバル化はありました。

直近では、1800年代後半~第二次世界大戦直前まで。
この時代のグローバル化は欧州列強のアフリカ、アジア進出と分割によるグローバル化です。
しかし、その本質は今のグローバル化と変わりません。

植民地から安く原材料を調達して本国で製品化し、そして、それをまた植民地に売りつける。そのための市場確保の手段として、イギリスの東インド会社などは徐々に軍隊を組織化し、インドを植民地化したのです。

では、イギリス本国の人々が幸せだったのでしょうか?
実は、必ずしもそうとは言えません。

工場では、子どもたちが働かされ、今のように環境に配慮されない工場が軒を連ねて劣悪な環境でした。また、その工場に仕事を求めるため地方の農場は解体されました。まさに、今は工場が撤退しラストベルトのようなエリアが誕生しましたが、その前の時代には農場だったのです。

こうして急速な分断が国内で生まれることで、不満の矛先は海外に向かいます。
その最大の帰結は第二次大戦だったと言ってもいいのではないでしょうか。

宮台真司さんもグローバル化自体は否定していません。
むしろ、今回のグローバル化によりかつての発展途上国の多くが新興国、中進国になりました。世界全体で見れば恩恵を受けた人は非常に多かったと言えるでしょう。

しかし、急速なグローバル化は、ラストベルトのようなエリアを一気に貧困化させます。
また日本でも過去20年続いたデフレと円高により、工場の多くは海外に移転しました。

言い方を変えれば急速なグローバル化は、先進国の中間層の急速な貧困化(事実上の途上国への所得移転)を通じて成し遂げられたと言えるのです。この構図を理解しないことには、トランプ現象を理解できません。つまり、分断を生んだのはトランプではなく、グローバル化と分断の結果としてトランプ現象が誕生したといえるのでしょう。

ピーター・ティールの視点

ピーター・ティールとトランプ現象

発展の2パターン(グローバル化:横展開、テクノロジー:縦展開)

グローバル化というのは、実は、現象としてはとてもシンプルです。

先進国で生み出された技術などをそのまま新興国に技術移転する。
技術移転された新興国は、安い人件費で大量生産して世界中に売りまくる。

これだけです。

この現象で恩恵を受けるのは、新興国の労働者と先進国の企業です。
一方で、損をするのは先進国の中間層です。

短期的に稼ぐためには、このグローバル化作戦は企業としては悪くはないのですが、最終的には損をしてしまいます。

なぜなら、この過程を通じて消費者である先進国の中間層をも解体するからです。
また、新興国の多くの国は政治体制に問題がある国が少なくありません。中国は未だに一党独裁体制ですし、最近、工場進出の多いベトナムやミャンマーも同じくです。

つまり、急速にグローバル化することを通じて、こうした独裁体制の国の政治体制を維持するどころか強化してしまい、世界に不安定化をもたらすという負の側面もあるのです。香港が中国に飲み込まれたり、ウイグル人が今も厳しい支配下にいるのはある意味、グローバル化を通じて先進国が毒を食らわば皿までと妥協してしまった産物であると言えるでしょう。

シリコンバレーの重鎮であり、本人自身ゲイをカミングアウトしているピーター・ティールが、一見、その対極にいるトランプを支持したのは、このトレンドを少しでもゆっくりするためには彼が必要だと判断したからだと回想しています。

むしろ、グローバル化を通じた横展開はこれくらいにして、もっと、技術発展を通じて世界を良くしていく方が良いではないか。これが、彼の主張です。

常に彼はジョークで、

We wanted flying cars, instead we got 140 characters.
(俺たちは空を飛ぶ車がほしいんだ。140文字のアプリ(Twitter)じゃねぇ。)

といつも言っています(笑)。

エマニュエル・トッドの視点

エマニュエル・トッドとトランプ現象

リベラルがリベラルではなくなった

エマニュエル・トッドは下記のように指摘しています。

ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市のメディアや大学のエリートは、トランプ支持者を「学歴がない」「教養がない」と馬鹿にし、ヒラリー本人も、「嘆かわしい人々(deplorable)」とまで言いました。  学歴社会とは、「出自」よりも「能力」を重視する社会です。しかし、本来、平等を促すための能力主義なのに、過度な能力至上主義のために高学歴であることがエリートとなり、学歴が低い人を侮蔑するような事態になっていたのです。高学歴エリートは、「人類」という抽象概念を愛しますが、同じ社会で「自由貿易」で苦しんでいる「低学歴の人々」には共感しないのです。彼らは「左派(リベラル)」であるはずなのに、「自分より低学歴の大衆や労働者を嫌う左派」といった語義矛盾の存在になり果てています。「左派」が実質的に「体制順応主義(右派)」になっているのです。

私自身、ニューヨークの会社でかつて働き、今もシリコンバレーなど西海岸側のカルチャーが好きです。

もともと、シリコンバレーのお膝元の、カリフォルニア大学バークレー校などのあるエリアはリベラルなエリアで様々な文化を生み出してきました。

一方で、私自身が現在のこのエリアに感じるのは、ラストベルトはじめ本来同胞であるはずの同じアメリカ人に対しての無関心です。むしろ、海を越えたアジア側に彼らの興味対象はあります。

この現象はアメリカだけではなく、EU、日本でも同じでしょう。

MBAを取得して、世界市民となってしまうと自分の同胞意識は他の自国民ではなく、むしろ、他国の同じような人々と結びつきます。あるいは、自分はリベラルであると認識すると、そうではない自国の同胞ではなく同じような海外の人々に共感してしまったり・・・。

この精神構図は、いわゆる自称グローバル・エリートの中には多かれ少なかれ存在していると思います。この歪んだ価値観が分断と憎しみを生み出してきたことを理解して、その対処に取り組まないと、ブレグジット、トランプ現象は再びより大きな形で噴出することでしょう。

そう、日本だって他人事ではありません。
上級国民、下級国民という言葉が誕生し、すでに社会は分断への道を20年以上進んでいるのですから・・・・。

上級国民と下級国民の定義 上級国民とは!?職業別でみるのが正しい?(上級国民=既得権で守られている人))

まとめ

いかがでしたでしょうか。

トランプ現象を彼個人の発言の切り貼りだけで判断するのが危険であり、過去20年の世界で起きてきたグローバル化、そして、急速なグローバル科挙ともいえるエリート層とそれ以外の人々の分断こそが、その本質的な問題であることを理解いただければと思います。

日本人は忍耐強いのでその問題が分断を顕在化させるほどには至っていませんが、決して、他人事ではありません。すでに、戻ることができないくらいに、我が国にも分断は生じています。

トランプ現象を日本、ヨーロッパも含めて国内で起きている現象と重ね合わせるとまた違う視点で見ることができるのではと思って書いてみました。

ありがとうございます。

大山俊輔