コロナ禍は人々から多くの自由を奪いました。
- 自分が望むように行動し試行錯誤する自由
- 自分が自由に考える自由
- 自分の人生を自分が決定する自由
こうした様々な自由が、コロナ禍を理由に時には露骨に目に見える形で、そして、時には見えにくくオブラートをかぶせた形で私達から奪われつつあります。この状況は世界大恐慌で大混乱した1920年代後半~1930年代と重ね合わせられなくもないでしょう。
大山俊輔
さて、状況がかくのようになるとやはり振り返りたいのは同じようにこの自由について深く考察を重ねてきた先人です。かつて、今ほど自由が生得的なものとしてなかった時代にこうした思想家たちは自由とは何なのかについて今の我々よりはるかに深く洞察しています。
そこで、今回はこの「自由」、もしくは「自由主義」というものを考えていくにあたって外せない思想家たちをこのエントリで紹介します。
私は立ち位置としては、中小企業の会社経営者です。したがって、別に大学で哲学部にいたわけでもなく、哲学が好きなわけでもありません。仕事にもがいて、その合間に読みながら首肯し、そして、学んだことを仕事に生かしていくことこそが、私にとっての哲学書の醍醐味です。今回紹介する人々の書籍では、「自由」とは何なのかいうことを真剣に考えさせられました。
こうした経緯を踏まえて、下記の人々をご紹介します。なお、このエントリで紹介する自由主義というのは、昨今保守系の方から左派の方まで憎き敵のように叩くいわゆる新自由主義とはまったく違います。くれぐれも、脳筋反射しないようにお願いします(笑)。
目次
1920年代~1930年代の戦間期の混乱を中心に自由を理解する
時代的背景として、1930年代の世界は大恐慌の混乱を通じて、人々が自暴自棄になり世界中がファシズム、体制翼賛体制に移行した時期でもあります。ソ連のように第一次大戦後の革命を経てすでにファシズム体制になった国もあれば、ドイツのように民主的プロセスを経て国民の合意のもとにファシズム体制になった国もあります。
私達がこのコロナ禍で学ぶべきはどちらかといえば、現在、世界中の大部分の国が採用している民主主義体制化、このような大混乱時に、人々がどのような政治体制とリーダーを選ぶ傾向があるのかではないでしょうか。
フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエク
国籍
オーストリア(イギリスに帰化)
活動時期
主に1930年代~1980年代
代表的書籍と主張
やはり、ハイエクといえば『隷属への道』(The Road to Serfdom)が代表的書籍と言えるでしょう。社会主義、共産主義、ファシズム、ナチズムが同根であるという主張は今でこそ分かる人にはイメージが持てますが、当時、ソ連もナチスドイツもそして将来的には他の先進国で流行しつつある過度な社会福祉重視の政治体制は同じ集産主義であるという指摘は新鮮でした。
大山俊輔
オルテガ・イ・ガセット
国籍
スペイン
活動時期
1920年代~1940年代
代表的書籍と主張
オルテガといえばその代表的著作は『大衆の反逆』(La rebelión de las masas)です。その著書の日本語タイトルのイメージとは裏腹に、壮大なスケールで描写された近代社会に誕生した大衆(mass)の生体分析と、よりよく生きるためのヒントを多分に与えてくれる作品です。
ドイツに留学しカント、ヴィルヘルム・ディルタイなどの思想に大きな影響を受けたと言われています。オルテガについては別エントリでも詳しく書いていますので是非ご参照ください。
実は起業家必見!?ホセ・オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』は生き方の指南書
実は起業家必見!?ホセ・オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』は生き方の指南書 – 要約・まとめ
エーリッヒ・フロム
国籍
ドイツ
活動時期
1930年代~1970年代
代表的書籍と主張
フロムはフロイト心理学の影響を大きく受けた思想家です。その代表的著書『自由からの逃走』(”Escape from freedom”)でしょう。自身がユダヤ人であったフロムはナチスからの迫害を受けますが、その際の分析はユニークでした。決して、ナチスという政治体制やドイツ人を憎むのではなく、なぜ、かくも民主主義的な政治体制を採用していたドイツとドイツ国民が(当時のワイマール体制は世界でも最も民主的だった)自ら自由を放棄して、ナチズムに傾倒していったのかについて心理的分析の視点からまとめた著書です。
フロムはここでその根源となるテーマを「自由」に求めました。
自由とは、その自由 ー ここでは特に積極的自由 ー を追求する覚悟が人々になければその重さに押しつぶされてしまいます。そうならないようにするに、もっとも手っ取り早い解決策は長きものに巻かれること、すなわち、ヘタれて大きな幹にぶら下がる道を選ぶのが人間なのです。これがファシズムにつながる根本的な要因であることを指摘しています。
読書レビュー – エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』も起業家ならバイブルの1つとなりうる名著
エーリッヒ・フロムの名著『自由からの逃走』をわかりやすく要約・解説 – 書籍内の名言などもあわせてご紹介します
ハンナ・アーレント
国籍
ドイツ→アメリカ
活動時期
1930年代~1960年代
代表的書籍と主張
ハンナ・アーレントといえば、映画『イェルサレムのアイヒマン』で知っている方も多いのではないでしょう?かつて、マルティン・ハイデッガーとも師弟関係が(一説では不倫関係でもあった)あり、その後、ナチズムが台頭してからはフランス、アメリカへと亡命し活動の舞台を移します。
彼女の一番の功績は”banality of evil”日本語では「悪の陳腐さ」という概念を見出したことです。その著書『エルサレムのアイヒマン』の副題は『悪の陳腐さについての報告』ですが、実際に、モサド(イスラエル諜報特務庁)によって南米で捉えられたナチスの大物アドルフ・アイヒマンの裁判に参加し、ここで、アイヒマンという人間の観察を通じて、如何に、悪という存在がごくありふれた人々を通じて行われるのかについての深い洞察をまとめました。
当時、本書はユダヤ人コミュニティの間では不評だったそうですが、今こうして、私達を見ていてもごく普通の一般人が、組織や家庭を守ったりちょっとした他人との比較のために、とんでもない巨悪を働く様を見ることができます。それは、すなわちその人の中に確固たる自由に生きる覚悟がないからなのかもしれません。
大山俊輔
古典的自由主義から近代的自由主義の時代へ
自由という概念を考えていけば、より古い時代にたどり着きます。
科学技術や政治体制においても我々人類はさまざまな試行錯誤を繰り返してきました。フランスでは王政から共和制、そして、七月王政から第二共和政、そして再びナポレオン三世による第二帝政から第三・第四・第五共和政となんどと揺り戻しと反動がありました。
これは、その時々私たち人間が時には自由を欲し、そして、時には自由を自ら放棄する性向がある生き物であることの裏返してもあるのでしょう。フランス革命前の時代から数多くの思想家が自由とは何なのかについて研究を重ねてきました。
時間をかけてこのあたりについてもより掘り下げたエントリを書いてみたいと思います。
サミュエル・スマイルズおよび中村正直
国籍
サミュエル・スマイルズ:イギリス(スコットランド人)/中村正直(日本人)
活動時期
1850年代~1890年代
代表的書籍と主張
“Self-Help”(邦題『自助論』)は‘Heaven helps those who help themselves’を「天は自ら助くる者を助く」の序文でも有名なスマイルズの名著。翻訳されたものが現在手に入ることができますが、やはり日本人ならば中村正直の翻訳した『西国立志伝』を読むべきでしょう。
スマイルズは、ビクトリア王朝期の全盛期を体現する思想家と言えるでしょう。しっかりと目標を持ってそれに真摯に取り組んでいく人たちが多数派となれば、その社会は強固となり、強い国になるということを、トックビル、ナポレオン、ジョージ・ワシントン、コロンブスなど様々な偉人の物語を中心に紹介しました。
まさに、積極的自由に向けて一生懸命な生を奨励する本と言えるでしょう。
中村正直の翻訳した『西国立志伝』は明治期出版からあっという間に100万部のベストセラーとなったそうです。
その翌年に出た福沢諭吉の『学問のすゝめ』は300万部。明治期の日本の人口が3000万人強であったことを考えると、この時期の日本の急速な欧米へのキャッチアップは、明治の元勲というリーダーに恵まれていただけでなく、ひとりひとりの国民の気風にあったとも言えるでしょう。平成、令和の大停滞を生きる私たちが学ぶことが多い本です。現在、日本で言われているような公助逃れの言い訳としての偽りの「自助」ではなく、誠にひとりひとりが独立するための書です。
まとめ
最近になってこのコロナ禍の経済混乱は1929年にはじまった世界大恐慌と似ているという指摘をする人が増えてきたと思います。
そうなると、人々は仕事を失い、より不安定になった個人は大きな幹にすがりつく傾向があります。先の経験では、これがファシズム、ナチズム、そして、体制翼賛体制へと結びついて第二次世界大戦という帰結を迎えました。
人類はあの時の経験から学んでいればよいのですが残念ながら昨今の周章狼狽を見ていると不安柄もあります。一人でも多くの人が、先の人類の経験から学んで真の自由を確立していく社会となることを祈るばかりです。
大山俊輔