大山俊輔
そろそろ、コロナによる犠牲の定義をそろそろ変える時期が来たのではないか?
そんなふうに思ってこのエントリを書いています。
私自身、現在の状況で経済活動を速やかに再稼働せよと言いたいわけではありません(2020年4月末時点)。
今のように人々が恐怖に取り憑かれた状況では、仮に経済活動を再開したとしても稼働率はたかが知れていますので、経済的損害が拡大すること自体は変わりません。
一方で日々ニュースを見ていると不思議に思うことがあります。
それは、ニュースで取り上げるのは、感染者数と死亡者の数。最近では退院した人の数を掲載するメディアもあるようですが、基本的にコロナによる直接の被害者を取りあえげているのです。
戦争でも、兵士の死亡数を減らすのが指揮官の努めです。
となれば、直接の戦闘における戦死者を減らす努力が大事なことは当然ですが、戦闘に至る前に病死してしまう兵士、あるいは、ガダルカナル島の戦いのように戦い以前に食糧不足で餓え死にしてしまうことだってあります。戦死だけが命ではなく、病死や餓死を最小限にする努力が必要なのは言うまでもありません。
となると、このコロナと人類の戦いですが別の戦線、すなわち、経済面・社会学の面から見てみた戦いはどうなっているのでしょうか?
私の身の回りでもコロナによる経済苦から首をくくるかくくらないかといった話をする人が出てきています。店や会社を畳むという話はもっと多くあります。3月から本格化した経済活動の停滞ですが、多くの企業のキャッシュポジションは4月末、そして、5月末を乗り越えられないところが多数あるはずです。
そう。現時点の日本におけるコロナの死者数は400名前後(2020年4月末)。ですが、すでにコロナによる死者を上回る自殺が出ていたっておかしくないはずなんです。そのことはこの後のシミュレーションで示します。
私が一番心配しているのは、今後さらに経済苦による自殺者が増加していくことです。ですが、思った以上にこの問題には注目が集まりにくいのも事実です。今現在、4月末の時点ですでに追い込まれている人とそうでない人でいうと、追い込まれている人は特定の立場の人に集中しているからです。
経営者やフリーランスのような個人事業主、あるいは、派遣社員、アルバイトや非正規雇用などの人はまっさきにこの影響を受けています。そして、企業内でも経理などに関わる人は現在の自社がどのような状況なのかを見ているので、胃が痛む思いの方も多いことでしょう。
あえて書きますが、こういう直撃にまだあってない方(と本人が錯覚している人を含む)や年金生活者の方はこの恐ろしさを知りません。
しかしながら、失業と自殺率の相関関係は過去の研究から非常に高く、このままではコロナによる直接死を遥かに上回る自殺による間接死を増やすことは間違いありません。政府の方も一部、清算主義的な発言をされてますが、それはあなたがぬるま湯にいるからですよ!
日本をとりまく清算主義と歪んだ道徳感情
このエントリでは、コロナ対策を考えていく上で従来のコロナそのものによる疫学的な被害だけにスポットライトを当てるのではなく、経済苦に伴う自殺者増加も含めた総合的な被害を考えることで、正しい政策や対応を採用するための一助になればと思って書いてみました。
目次
失業と自殺の相関関係
従来より、失業と自殺には非常に高い相関関係があることが指摘されています。
その証左として、日本で自殺者が急増したのは97年の消費増税後〜2010年代中盤です。この時期は、デフレで経済が疲弊し多くの中小企業が倒産、失業者が世に溢れました。
私達は資本主義社会で生活をしています。
GDPとは財・サービスと貨幣の交換です。私達の所得はベーシックインカム、年金、今回の一律10万円の助成など例外を除けば、基本的に、自身が提供する労働を通じた製品やサービスを消費者が購入することで得ているのです。コロナショックに伴う緊急事態宣言、そして、自粛要請が意味することは、この経済活動そのものを止めることによりウィルスの拡散を防ぐという肉を切らせて骨を断つ荒療治でもあります。
ですが、補償が限られていることから当然企業は厳しい状況に追い込まれ今後失業率が増加することが予想されます。
澤田康幸東京大学教授は戦後まもない1953年から2017年に至る過去65年という長期の失業率と自殺者数のグラフをまとめてくださっています。これは本当にありがたいグラフです。それがこちら。
失業率と自殺率の推移 – 澤田康幸東京大学教授調べ
見事にグラフを見るだけでも相関関係があることが一目瞭然です。
ちなみに、相関係数は+0.7024とのことです。相関係数は1に近づくほど関係が高いので、0.7というのはかなり関係があると思って良いです。
ちなみに、澤田教授は単回帰分析をされていて、Xを失業率、Yを自殺率として計算されているのですが下記の式のとおりです。
つまり、失業率であるXが1%あがると自殺率Yは1.949上がります。
ざっくばらんに日本の人口を1.2億人とすると、失業率1%の上昇は2339人の自殺者を増やすということです。
ただ一つ大きな問題があります。自殺者の多くは現役世代です。ですので、労働者人口で考えてみると、6800万人の労働力人口に対して1%の失業率増加(68万人)に対して、2339人の自殺が増えるという計算になります。
2020年3月、つまり、コロナ倒産などがではじめる直前の失業率が2.5%です。
アメリカでは、ジャネット・イエレン前FRB総裁の試算では、すでに失業率は15%に達しているとも言われています(アメリカの3月時の失業率は4.4%)。
すなわちわずか1ヶ月で失業率が10%も上昇しているのです。
しかも、この数値はまだまだ上昇することが予想されます。
日本とアメリカは失業に至るまでのメカニズムが少し異なります。
アメリカでは景気後退期に企業はレイオフを行い、労働者は失業保険を活用します。
一方で日本では、解雇規制が厳しいため企業が倒産するまでグダグダと失業率は悪化していきます。
どちらが良いのかは状況にもよりますが、今回のケースはグダグダすると、企業そのものがなくなってしまうため、結果として景気回復期に雇用の受け皿が消滅してしまい失業率が改善しないというリスクを日本は抱えています。
さて、仮に日本でも経済面の無策が続き失業率が10%上昇するとすれば、自殺者は23,390人増えることになります。97年〜2016年までの超過自殺者は約10万人です。これは、日本が国家の存亡をかけて行った日露戦争の戦死者数と同じでした。しかも、この数字は表向きの数字で、年間15万人の変死者数はカウントされてませんので、それ以上の方が経済苦を理由に命を断つ可能性があります。
今回はこれ以上の損害が今後数年で出てしまう可能性があるのです。為政者は必ずこのことをシナリオに入れて政策を考えるべきです。
コロナによる死者を考えるときには総合死者数で考えよ
経済学の解釈としては自殺というのは人々の合理的判断の結果として選択される行動と言われています。
つまり、今後この状況下で行き続けていくことで得られる生涯効用と、今この瞬間に自殺により苦難から開放されることを個人が天秤にかけた結果、死を選ぶ方が合理的となったときに自殺を選ぶということです。
失業と自殺の相関関係は非常に高いのです。
世界各国が、なりふり構わず経済対策をするのはこういう確率分布が読めないフランク・ナイトのいうところの「真の不確実性」が実現する時には、「なりふり構わずなんでもやる」が雇用を守る上でも正解なんです。
コロナショック〜フランク・ナイトの「リスク」と「真の不確実性」
下記の図は、97年の消費増税に伴うデフレ化の日本での増加した自殺者と職業の関係をまとめたものです。
このタイミングは私が丁度大学を卒業する時期ですので、非常に記憶に残っています。
この図を見てみると、自殺者は前年の24,391人からなんと32,863人、すなわち34.73%も急増したことになります。当時、消費増税をした橋本龍太郎首相は最後まで自分の判断が間違っていたと悔やんでいたそうです。しかし、悔やんでも死んだ人は返ってきません。為政者はこのことをもう少し重く捉える必要があります。
中でも、自殺者増加の大部分が自営業者、被雇用者、無職が増加の大部分を占めます。
すなわち、経済苦による現役世代への影響が大きかったことがここからも見えてくるのです。
富や雇用を生み出す自営業者がこれだけ死を選んだというのは、国家としても非常に大きなロスだったと言えるのではないでしょうか。
コロナによる総合的被害をこれ以上出さないために
さて、現在継続中の緊急事態宣言と自粛要請ですが今後の判断ではぜひ、国も東京都はじめ地方自治体もKPIに「総合死」という定義を盛り込んでいただきたいと思います。一旦、GDPがどうとか数字の話を置いておくとして、単純に人の命が大事という視点で見てみたとしましょう。
つまりこういうことです。
2) 経済苦による犠牲者:自粛に伴う経済活動停滞による経済苦を理由とした自殺者の増加数
3)犠牲者総数=1)+2)
この構図を常に考えながら、自粛継続の場合には経済対策をしっかりパッケージで行うことをしっかりと説明して事業者も安心して休業するようにする時期に来ています。
すでに、4月末で家賃が払えず撤退する会社は相当数に登ります。
5月も同じことを続ければ更に数は増えて、失業率は私が恐れている10%超になりかねません。
そうなれば、経済苦に伴う自殺者の増加は2万名以上増える可能性があります。
コロナで失う命も経済で失う命も同じはずです。いえ、むしろ、経済で失う命は正しい経済政策で防ぐことができるのです。
このゴールデンウィーク明けに経済活動を再開するのか、それとも、自粛継続を求めるのか。
これは、政治的判断ではありますが、その判断をする際には下記のような経済苦による自殺増加もシミュレーションに入れた上で、どのような補償をパッケージで出すのかも考えるべきです。
自殺者数の増加はコロナ感染死者と違いすぐにデータとしては現れません。
しかし、確実に1年後、2年後にデータとしてでてきます。
先のデータだから自分は知らないと逃げるのではなく、政治家や官僚諸君はこの数字の業を背負っていることを自覚して様々な意思決定をされることを切に願います。
日本は第二次大戦時も戦死者230万人中、61%にあたる140万人が戦病死・餓死という戦闘外の死という不名誉な実績があります。とかく、政治パフォーマンスを優先し本当の意味での人命を本音としては軽視しがちな実績があることを最後に付け加えてこのエントリを終わらせていただきます。
日本的フェティシズム~戦争における餓死と経済におけるGDP減少を招くやっかいな病大山俊輔
PS: 残念ですが2020年10月時点で自殺者は前年度比40%増、女性の自殺数に至っては80%増という恐ろしいデータが出てきました。4月時点で、このことを軽視していた人たちの猛省を促します。
自殺者の増加にたいして思うこと(このままだと間違いなくコロナより多い犠牲者数になる)
PS: YouTubeも御覧ください。