テレワーク・リモートワークという言葉ほど、漠然と定義づけられて曖昧に運用されているものはないのではないでしょうか?
しかし、日本でのテレワーク・リモートワーク現象を見ていると従来のテレワークが目指す方向とは真逆の方向に向かっている気がしてなりません。
大山俊輔
日本のテレワーク・リモートワークが特徴的なのは、コロナをきっかけて議論が一気に加熱したこと。
つまり、平時に多様な働き方を国も企業も労働者も考えることがないままに、コロナをきっかけにあれよあれよと言う間に導入につながったことです。つまり、そのメリット・デメリット、そして、課題や問題点を検証するまもなくなし崩し的に導入されてしまったことです。
この辺りは、外発的文明である日本らしい現象と言えますが、今後、様々な課題を表面化させていくことが予想できます。
目次
特徴的な出来事:資生堂のテレワーク導入事件
私がまずこの日本型テレワーク現象に違和感を感じたきっかけは、コロナ騒動がはじまって間もない頃。
資生堂さんのテレワーク導入のニュースでした。
このニュースの中の文章で、特に気になるのはこの部分です。
資生堂は新型コロナウイルス感染症対策の一環として、国内グループ会社の全社員(工場での生産や店頭での販売などの業務に携わる社員を除く)を対象に、業務内容に応じた多様な働き方を6~9月末まで(予定)実施する。
あれ、なんだ。
オフィス勤務の人だけで工場や店舗の人は違うのかよ!
という点です。
言われてみれば当たり前のことなんですよね。
工場が動かなければ、資生堂の製品は流通しません。美容部員さんが現場に立ってくれないと本社の人たちの給料が稼げません。
つまり、テレワークと言っても結局対象になってるのは本社の人と、事務関係の仕事をしている人だけなんですよね。
実際、まだまだコロナ禍がどのように展開するかわからなかった2月、3月といった時期にこうした判断は英断だとして天下のくおりてぃぺーぱーこと日経新聞などでも報道されていました。しかし、私も店舗関係の会社を経営していますし、現場にも立っていたのでこのニュースを聞いた時に世間の反応と真逆の印象で受け入れていました。
それは、
え、じゃ、工場は?美容部員の人たちは働くの?
ということです。
当時、もし、私たちの会社で同じ判断をするとしたら、おそらく現場も本社も同様の措置をとるしかないと考えました。
特に、今回のコロナのような問題では、状況が見えない時にこうした部門ごとに極端な待遇に違いが出てしまうと組織内にしこりを残してしまいます。だからこそ、世間では、
「資生堂すげー」
と、騒いでいる時、私は、
「ふーん」「で・・」
と思って見ていたんです。
英語でテレワークはテレワークではない
英語でテレワークの直訳語となる”telework”という言葉は確かにあります。
もともと、NASAで働く人達が「いつでも、どこでも、ソ連との競争に負けないために働ける環境を作る」というマッチョな目的のため、家でも働けるために作った言葉なんですよ。どっちかというと、労働者をオフィスだけじゃなく家でも憎きソ連を打倒するために働かせる、という、ニュアンスが当時あったんです。
本来オフィスで働く時間が100とすると、
- 自宅で50
- オフィスで50
- 合計:100
- 自宅で50
- オフィスで80
- 合計:130
というようなイメージです。
ところが、日本は実際のところは、
- 自宅で50
- オフィスで10
- 合計:60
みたいに、総アウトプットは減っているのが現状ではないでしょうか。
ちなみに、英語で”telework”という言葉が誕生した1970年代に、”telecommuting”という言葉も生み出されました。
最近ですと、日本人が一般的にイメージするテレワークという言葉は、英語圏では”work from home” (略して”WFH”)に置き換わってきているようです。
リモートワーク”remotework”は、オフィスワークがほぼなくてほぼ、自宅はじめ社外から働く人全般に使われるイメージです。どちらかというと、ノマドワーカーなどは、家かスタバでしか働かないような人なので、広義にリモートワーカーだと言うことができるでしょう。
日本型テレワーク・リモートワークの課題・問題点
課題・問題点1 – そもそもテレワーク、リモートワークできる仕事の人はもとからしてる
さて、それではここで日本型テレワーク、リモートワークの課題を見ていくことにしましょう。
そもそも、日本企業の大部分がコロナ禍をきっかけにテレワーク、リモートワークにになりましたが、ハッキリ言っておかしな話です。
従来から、「ノマド」(遊牧民)ワーカーなどといって、IT、デザイン、クリエイティブ関係の人はスタバやオフィスで仕事してますよね。私も、かばんに常にノートパソコン入れてどこでも開いて仕事する体制の生活をかれこれ15年以上はしていますよ。旅行に行くときも常にパソコンを持ち歩いて、朝礼の準備、メルマガの配信、エンジニアとのやり取り、銀行への資料などなんでもかんでもやってますよ。
そう、もとからテレワーク・リモートワークってやってる人はずーっとやってるんです。
ただ、コロナをキッカケに急ごしらえでテレワークやり始めた人と昔からやってる人が1つだけ違うことがあります。
昔からテレワーク・リモートワークをやってる人のほとんどは自営業かフリーランスなんです。だから、仕事や給料に安定なんてものはありません。仕事が余分に転がり込んできたら、
「これが今年最後の案件かもしれない」
とばかりに、1ヶ月働きづくめになっちゃうデザイナーさんだったり、いつどこでも、仕事を追いかけられても対応しなければならないインフラ周りを担当しているエンジニア、あるいは、起業家だったりするんです。
日本型テレワークはコロナ対策で導入された会社が多いですが、もともとテレワークやってた人たちは自由な仕事をする代わりにそれだけの代償(=リスク)があるからこそ、そして、いつでも働ける環境が必要だからテレワークをやるべくしてやってたんです。
課題・問題点2 – 自分を律せられないからオフィスワーク
そう考えると、今回のコロナ禍で出てきた日本型テレワークには問題があります。
その導入が進んだのはいわゆる官公庁、大企業、一部の中小企業の本社のデスクワークや営業の仕事をしている人たちです。では、こうした人たちの中でどれだけの人が、普段からかばんをパンパンに膨らませて、重たいノートパソコンを365日24時間持ち歩いて、どこでもパソコンを開く生活をコロナ禍前にしていたでしょうか?
一部のエンジニアさんはしてたかもしれません。
ですが、それ以外の大部分の人は、パソコンと言えば会社でしか使わないという人が大多数でしょう。
そう。もともと、なぜ、会社が職場を提供していたのか。
これを深く考えてみる必要があります。
それは、世の中の大多数の普通の人は自分で自分の時間とプライオリティを完全にコントールして、パフォーマンスを高く維持することなんてできません。私もサラリーマン時代はできませんでいした。今、ノマドワークをやってるのはやりたいからじゃなくて、いつでもどこでも働かないといけないからなんです。
では、ごくごく普通の人がそこまで追い込まれない人に負けないようにそこそこのパフォーマンスを出すような環境。
それが、会社だったりオフィスのような仕組みなんです。
このことを書くと、叩く人もいるかもしれませんが現実です。
そもそも、自分で自分の時間や優先順位を自由にコントロールするという内的動機が強い人ならとっくに外に出て起業するなり、ITやデザインなど汎用性の高いスキルを付けてコロナ前からとっくにテレワークできる会社で仕事をしていることでしょう。
課題・問題点3 – あまりに独自仕様の社内システム
もうひとつ、日本の大組織を見ているとテレワーク、リモートワークを難しくする要因があります。
それは、1970年代くらいに開発されてまだ現役のレガシーシステムと厳しすぎるセキュリティ。
大企業の方とメールのやり取りをすると驚くことが結構あります。
-
- メールアドレスがない(一部業界)
- クラウドサービス(Dropbox、Google Drive等)がNG
- 添付ファイルがだめ
- Slack、チャットワークもだめ
などなど・・・。
そう。多くの大企業は歴史が長く、社内にレガシーシステムが残っています。そして、システム部がこうした仕事の効率を上げるクラウドサービスを使うことにNGを出してしまっていることをもまま、あるのです。
出典:https://times.abema.tv/news-article/5076628
なんせ、一応大企業で一番えらいと言われる経団連の日立出身のこの人がこんなこと言ってるくらいです(笑)。
これは、大組織の人をかばいたくもなってしまうような状況ですね。
経団連など大企業サラリーマン社長ってホント今もパソコン使えません(笑)。自社で作ってるのに・・・。
だから、現場が何に困るのかわからないんですよ。
まぁ、本当のテレワークしたいんだったら起業したりフリーになるか、IT・デザイン系の会社に行くべきでしょう。
課題・問題点4 – サービス業界、製造業、現場業務での導入が困難で本部との軋轢の材料になる
さて、そもそも根本的な問題と言えるのがテレワーク、リモートワークを導入できる仕事、職種とそもそもできない職種が別れてしまうことです。
そして、日本の大企業といえば、製造業やそれに付帯する産業が圧倒的多数。
そうなると、現場ではリモートワークしたくてもできないんです。
さすがに、美容部員さんや工場で製造に励んでくれる方たちがリモートしたいと言っても「はい、そうですね」とはいえないですからね。
これが先程の資生堂のケースで私が感じた歪の原因でもあります。
結局大企業正社員・本社の人の利権になり、人々から愛社精神を奪い去り大きな問題に
日本の問題は、諸制度がすべて大企業の本社の正社員のライフワークを前提に構築されることです。
- 年明け後の休暇を増やす
- ワークライフバランス
- 働き方改革
- 令和の御代変わりの際のゴールデンウィークの延長する
こうした、キテレツな案が真面目に議論されてその多くは導入されてきました。
でも、待ってください。
これって、「月〜金」9時〜18時まで働く本社の人や正社員のための制度じゃないですか?
でも、世の中の多くの人々はサービス業や製造の現場で働いています。
実際、日本の就業者数は7000万人弱ですが、こうしたぬるま湯の環境が適用されるのは2000万人いるかどうかというところでしょう。
残りの5000万人を置き去りにして、どんどん導入されるゆるーくなる社会システム。
だからこそ、「上級国民」なんて言葉が出てきて月金族に対する妬みが出てきてしまうのです。
上級国民とは!?職業別でみるのが正しい?(上級国民=既得権で守られているサバイバル力0の人)でも、一方でこの上級国民さんにも悩みはあります。このゆるい日本版テレワークに慣れた大組織の上級国民さんは、もはや、コロナ収束後、仕事人としてぬるぬるすぎる環境に慣れきって使い物にならなくなってる可能性だってあります。そして、ぬるくなったとはいえ、残業代は削られて不平不満を増やすことになります。環境はぬるま湯になってますが、会社も一緒に沈没してますので、早期退職などで追い出されたりする不安とも向き合うことになります。
そうなれば、ますます会社にしがみつかせてしまい歪な感情が生まれてしまい後に禍根を残すことでしょう。この考察は、「日本的リモートワーク~人を組織にしがみつかせ、愛社精神を奪うおままごとシステム」というエントリで行っていますので、合わせてご参照ください。
日本的リモートワーク~人を組織にしがみつかせ、愛社精神を奪うおままごとシステムそろそろ、制度を考えていくなら、しっかりと社会全体のバランスを考えていく必要があるのではないでしょうか?
今日もありがとうございました!
大山俊輔