大山俊輔ブログ ー 脳科学による習慣ハック・歴史・経済のサイト

グローバル化以降の企業行動と国益について

国益と企業活動

大山俊輔です。10月も今日で最終日。
気づけば前回のエントリが8月15日の終戦記念日だった。

その後私たちの会社でも色々とあった。

私たちの会社の人員構成は日本人スタッフと外国人スタッフに分けることが出来る。

その中で、日本人スタッフは私と妻を除くと7名全員が“コンシェルジュ”という現場スタッフ。私たちの規模だと、所謂マネジメントチームを構築するべきか、現場スタッフを充実するべきか悩むステージだ。自分としては「同じレベルで話せる経営チームが欲しい」という誘惑は常にあるが、その一方この規模でサービス業をしていると、そのマネジメントにコストを掛けるより現場を充実させることの方が、顧客サービス面からも私自身の時間をより付加価値の高い業務に割く観点からもROIが高い。そして、スタッフは全員が女性。

外国人は米国、英国、カナダ、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランド、フランス、香港・・・。現在、働いているのは25名ほどで、こちらも女性が多い。

丁度震災から半年。

外国人スタッフの動揺も落ち着いてきた頃、日本人スタッフの方の出入りが重なった。女性スタッフが多いということは、男性と比べても色々とライフステージ上変化が起きた時に仕事への影響も多い。例えば出産や結婚。ワークライフバランスなどという響きの良い言葉を社内で言ってみたいものだが、自分達の規模の会社はその余裕はない。本屋さんで「6時に帰る チーム術」なんて見ていると、それが可能なビジネスモデルもあるのだろうがついつい「フッ」て嘲笑しながら通りすぎてしまう。それにそもそも自分はがむしゃらに働くの好きだから。

結果、スタッフの入れ替わり期となるこの時期は、私も妻も休みなしで殆ど現場に入っていて、ブログを更新する時間はなかった(その分Twitterでのつぶやきは増やしていた)。

そんな大変な9月、10月だったがお陰で良い形で終えることが出来そう。

その一方、10月は震災に並んで今後の日本経済、そして、日本国家の根幹を騒がす議論が沸き起こった。TPPだ。

誤解をまねくことがあるので、先に結論を書いてしまうと私はTPPには完全に反対だ。

アメリカの大学院に留学し、社会人になって働いた会社の多くはウォール街系のアメリカの会社だったこと。また、TPPなどの流れで今の英語関係の事業も恩恵を被るのでは?と言われたりするがこれはマクロで現状認識をするとやはり反対せざるを得ない。

細かい議論は専門家が喧々諤々しているので、その方達の議論を見たほうが
良いと思うが、自分自身は三橋貴明さんや中野剛志さんと自分の認識は近い。

⇒気になる方は以下の動画で。
中野剛志氏

三橋貴明氏と竹中平蔵氏

それよりも、今回のTPP議論で良く分かってきたことは今の世界が置かれている状況が日本人が思っている以上に弱肉強食の時代に逆戻りしているということ。まさにかつての第一次大戦後の戦間期にそれは近い。世界最強国家であるはずのアメリカですらなりふり構ってられないしEUはそもそも崩壊の瀬戸際状態。思想家の西部邁は、この状況を皮肉を込めてスターリンがかつて「資本主義の全般的危機」と言った言葉を引用していた。私も同じように思う。

そして、もう一つ最近感じることは、グローバリズムの進展が必ずしも、国民国家に属する個人(国民)を幸せにはしないということだ。

それは、サムソン・ヒュンダイがどれだけ栄えても国民に利益が還元されずに
海外に利益が流出してしまった韓国経済を見てもよく分かる。私は韓国に対して結構厳しいことを言ってて、韓流ゴリ押し報道や領土問題などに対する異常な行動はおかしいと思う。でも、一国家として見た時にここまで企業と国民の利益が乖離し、サムソン栄えて国民困窮するこの状況は本当に韓国民に同情する。

その一方、財界の人間や私も一応そのカテゴリに入れられることが多いが、
ベンチャー起業家系の人間がTPPに賛成するのは何故だろう?1つはTPPの言葉に出てくる自由という言葉に戦後日本人がロマンチシズムを持って疑いを持っていないことじゃないだろうか。それは民主主義、資本主義、自由主義、株主至上主義といったイズムに対する疑いの放棄。古代ギリシャの系譜を引く西ヨーロッパ、明治日本、そしてアメリカですら自由や民主主義を謳いながらも、その本質を冷静に見つめて疑いを持ちながら他の選択肢がないからと付き合ってきた。ある意味、戦後日本人ほどこうしたイズムを疑いなく受け入れてきた人間は世界でもいないだろう。事業面で私も尊敬する企業家先輩でも、やはり資本主義や民主主義に対し全く疑念がないと思う。

そして、もう1つは- 実はこれが一番大きい気がするが – 企業(超大企業)と国民の利益が必ずしもグローバル化の過程で一致しない時代になってきているということではと思う。

自分は今の世界の状況というのは、かつての第一次大戦後の戦間期と同じくらい
危機的な状況で世界中の国が、自国の国益を守るためになりふり構わない行動を取っている時代だと認識する。アメリカも必死だし、ロシアはその時代に備えるべくプーチンの長期政権を模索している。時と場合によって何故そこまで、と思う韓国のゴリ押外交だってそう考えれば理解できなくもない。良いか悪いか別に優秀な国家のトップはそれに気づいている。

日本にいたっては、東日本大震災で東北地方が壊滅し、復旧復興もまだならぬまま、
同胞を放置した状態だ。今後暫くの間は東海東南海地震はじめ、地政学的には日本全国同レベルの天災が起きてもおかしくないという、とてつもない状況だ。

不思議だが、世界で最も危機感を持っていなければいけないはずの日本人が
今、世界で一番脳みそがお花畑だということだ。前の経団連の主張する消費税増税・法人税減税の話じゃないけど自分達の業界さえ良けりゃいい、という発想が染み付いていて他者や他業界、そして、日本国全体のバランスを考えるという行為を放棄しているのだろう。まさに自分の事だけを考えた結果の合成の誤謬だ。

グローバル化の一つの結果は、企業が利益の為に国を選ぶことが出来るということだ。

これだけ製造拠点が世界中に分散し、所有者たる株主や顧客が世界中に分散した輸出企業の利益が日本国民の利益に合致するとは限らない。利益だけではないが尖閣諸島問題で日中の利害がわかれた時、真っ先に日本に妥協を求めたのが経団連だったことを見てもそれは明らかだろう。

確かに昔の経団連には、国士とも呼ぶべき人材がいたのだろう。

しかし、それはグローバル化以前の話で、競争というのはあくまでも西側諸国間での競争でしかなかった。当時は懐かしい話だが株式の持ち合いやメインバンク制度も機能していたから国内で資金が回っていた。そして何より、平成に入る前の世代というのは戦争経験世代でどこか死んでった仲間と廃墟から日本を再考するということを担っている気概があったのだろう。

あまり世代間闘争を持ち込みたくないが、残念ながら政治も経済も大きく狂い始めたのはまさに平成の御代に入ってからだ。これは私の思い込みかもしれないが、昭和から平成に向かう過程で、かつての戦争経験世代(戦前教育を受けていた世代)が現役引退し、戦後世代が桧舞台に立った。

私の世代より上の人は覚えていると思うけれども、今、TPPで議論となっていることと似たことが80年代から90年代の日米関係にあった。プラザ合意や日米構造協議といったニュースが賑わした時、まさにその論点は、「日本の社会システムがグローバルスタンダードではないから構造改革するべきだ」と。

その後起きた平成の改革の多くは今思うと日本の歴史に根ざした経済・政治システムを解体してしまい、代わりに節度のない弱肉強食社会にしてしまった。皮肉だが、自由や平等と言いながら、こうした改革を通じて逆に自由がなくなってしまった。そして、残念ながらその時期に運悪く冷戦が崩壊しグローバル化の進展が重なった。冷戦後、本来国益を優先した対応を経済的にも外交的にも取らないといけない時に日本はそれが出来なかった。

それが自分が思った平成の総括。

ただ、こうした自分の事だけしか考えない行動には必ず天罰が来ると思う。
それは自分の業界や自分の利益しか考えずに行動することに対する報い。

自分はその報いが皮肉だけどビジネスでは平成デフレだと思う。
政治では昨今起きている外交・防衛面の問題を見ると、枚挙にいとまがない。

TPPや消費税増税(と法人税減税)のような主張をしている経団連系の重鎮の方々は
恐らく自分のこと(と株主である外国人投資家や製造拠点がある国を含む)を考えて行動しているのだろう。その中に日本国民を豊かにしようという気持ちがなく、あくまで目先の短期的行動をとっているわけだ。

これが長期的にうまくいくとは思わないが、仮にそうして企業利益が短期的に上がったとしよう(これが2000年代に起きたことだが・・・)。

しかし、その富は結局デフレの日本では再投資されないし、海外の株主に配当として流出してしまう。恩恵を受けられるのは大手企業の一部経営陣と株主とひょっとすると一部の社員。いや、社員だってどうだか。また、皮肉だが海外投資家に還流された富とて例えばアメリカの一般市民には還流しない。いっとき流行ったトリクルダウン理論というのはかなり眉唾ものだ。

逆に、日本国民 - 特に中間層 - の富は減ることになる。
同じ仕事をしていても自分が属する業種により所得が変わる ~ましてや雇用の大部分を占める中小企業は減収減益、大企業でも社員以外の雇用形態の人間は益々所得減になる ~ 状態では、中間層は益々困窮化し、結局、輸出で多少の売上が増えたところでそれ以上に、国内売上は減っていく。しつこいが日本のGDPの6割が国内消費だ。

これが歴史的に今起きていることじゃないのだろうか?

自分の会社は内需企業でしかない。
最近は英語公用語化ブームでうちにもお客様でそういった会社からの方も多いし、多少なりとも恩恵はあるのだろう。そういった企業に尻を振りたくもなる誘惑はあるが、基本自分達がお手伝いしたいのは、そういう企業の恩恵をこうむる人より、それ以外の一般の人達(結構そうした企業で困って提携している学校に通えない方がこっそり通ってくださっているが)。そう思ってビジネスをしている。

だが、こうして中間層の所得がこれ以上減っていけば結局は、自分にとってマイナスだ。幸い内需系の会社なので、基本的には日本国民が豊かになることと自社の利益は一致している。お客様が富んで私共の価格帯に対して気持ちよく払ってくれる人が増えれば売上もさらに増える。そして、社員の給料も増やせるし更に将来に向けた投資に回る。そのお金はさらに他業界に回る。GDPの6割が個人消費の国だからこれが一番本当は効果があるんじゃないだろうか。

だから私は自分の考えの軸は、「これって日本にとっていいの?=自社にとっていいの?」と利害が一致している。

もし、当社が海外株主も沢山いて定期的な決算情報の開示が必要な形態であれば
こんなこと言わずに恐らく、経団連の会社と同じで今の短期的な流れに乗ってケツをふっているのかもしれない(性格的に無理だが取締役会でそうなってるだろう)。当社ももともとは株主も短期資金型の投資家がいたし、取締役会もあったが、会社が厳しかった時に全て撤退していただいた。ということで、今は一人株主・一人役員のこてこてオーナー会社だ。自分達が食っていける中で言いたいことを正々堂々と言えるし、特定の意見を持つ団体に付き合わないでいいし、日本の国益に即した行動を取れる。

ただ、それは今の話であって、これ以上消費税やTPPといったインチキ経済学で
デフレを悪化させられてしまうと、当社に限らずそれだって分からない。

この20年の日本はミーイズムが跳梁跋扈した時代だと思う。
セルフプロデュースが流行り、自分の事を考えるのがよかった。どうすれば、自分を売り込めるか。高く売れるか。目立てるか。そして、国のことなんか考えるのはダサイ、といった論調がメディアを賑わしていた。ただ、残念ながらミーイズムを通して全体のパイが大きくなることは非常に少ない。単に、今ある国富の取り合いになってしまいいつか国力が衰える。それがデフレの今の日本だ。

自分達はひょっとするとセルフプロデュースはそこまで上手じゃないかもしれない。
多少、遠回りでも自分達のやりたい事を信じてやっているし、対内的にも対外的にも小さな妥協はありつつも、この根幹的な考えを揺るがす妥協は一度もしていない。

日本は幸いこの震災を通じて一つ大事なことを学んだと思う。
それは、国民というのはその土地に生まれ育った人間であり、その土地と人々を愛している。そして、震災があろうが原発が事故を起こそうが、そうした土地に根ざした人間というのはグローバル企業と違って踏みとどまる。だからこそ、復興も出来るのだ。これは、ひょっとすると日本と日本国民が得た最大の教訓かもしれない。

早く日本が、普通にこつこつ頑張る人が報われる社会に戻ることを期待したいし、
自分は企業活動が第一であるがそれ以外にもこうした日本国民を連帯し、日本がもう一回力を取り戻せるような運動をしたい。それが遠回りに見えて一番自分の会社にとっても利益があると思う。

自分は日本がまだまだ大丈夫だと思っている。
なぜなら、まだ日本には余力が沢山ある。世界最大の債務国であるアメリカと異なり日本は世界最大の債権国で経常収支も黒字だ。そして、何より私たちの会社で働く外国人はそうした日本の良さに惹かれて日本に来ているわけだ。

あとは、日本人が目覚めて行動すれば確実に陽はまた昇る。

そう思って11月も頑張ろう。

 

大山俊輔