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中小企業にとってアベノミクスとは何だったか?(アベノミクスの評価)

アベノミクスの評価

悩む人

・ 安倍総理大臣の辞任発表で今後どうなるのか?
・ アベノミクスは継続するのか
・ 中小企業は今後どのようにサバイバルするべきか?

中小企業やベンチャー企業の経営者にとって、果たして安倍政権とは何だったのか。そして、アベノミクスをどのように評価するべきか。
ちょうど、安部総理が退任を発表されるにあたり、次の総理が誰になるのか、そして、経済政策はどのようになるのかについても気になるところです。

大山俊輔

本業は会社経営者。英会話スクールを首都圏9箇所で運営。起業前は証券会社のM&Aアドバイザー、ベンチャーのCFO、ベンチャーキャピタルのキャピタリスト。中小企業経営者の立場と、金融市場側の立場双方からこのエントリを書いています。

次の政権が菅さんになればアベノミクスは継続すると言われています。
仮に、石破さん、岸田さんがなったとしても大まかな経済政策は継続されることでしょう。

となると、中小企業で日々サバイバルする我々は、まずは、アベノミクスとは何だったのかという評価と総括が必要です。
そして、その評価に基づき良かれ悪かれ自社のサバイバルを考えていくしかないですね。

このエントリでは、アベノミクスを中小企業経営者の立場で評価することで、現在の日本経済の課題を理解し、今後の日本でのサバイバルをどうすべきかという視点が見えてくることでしょう。

アベノミクスとは

まず、はじめに私とこのブログの立ち位置から。
私は当初安部総理(当時は政権が民主党時代でしたので安倍自民党総裁)が2012年末の選挙演説でアベノミクスの草案を聞いた時、

「やっと、日本経済が復活する」

と喜んだ一人でした。
しかし、喜んだのはわずか1年でした。

確かに安倍首相は1年目は公約を守りました。
財政政策では、2013年1月には補正予算を閣議決定、10.2兆円の大型予算を実行しました。
また、金融政策では2013年3月に、デフレ政策寄りの白川方明総裁を事実上、任期満了前に退任させて黒田東彦氏に。

これで、株価は一気に好転、マクロ経済でもGDPはじめ各指標が改善しました。

しかし、2014年には消費税が増税に。
これで、私はアベノミクスの事実上の終了を悟り絶望しました。
株もソッコーで売っちゃいました(笑)。
(株だけ見るなら後々の政策見るともっと持ってても良かったですが、それでは男がすたります(笑))。

では、なぜ、期待→絶望と立場を変えたのでしょうか。それは安部総理の変節でした。
まずは、アベノミクスの原案を理解していくことにしましょう。

アベノミクス原案

では、まず、アベノミクスの原案です。
これは、当初アベノミクスというニックネームが付けられる前から安倍氏本人が言っていたことです。

それは、有名な「3本の矢」という言葉に象徴されます。

・ 大胆な金融政策
・ 機動的な財政政策
・ 民間投資を喚起する成長戦略

この原案については詳しくは首相官邸のHPに掲載されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

もしちゃんとアベノミクスを実行する(していたら)どうなったのか?
「アベノミクス」=「3本の矢」というとこまでは知っていても、実際にどのような狙いがあったのかは興味のない方もおおいのではないでしょうか。実際にこの3本の矢の当初の狙いとは何だったのでしょうか?

下記のサマリはWikiから持ってきてます。ちょっと解釈微妙なとこもありますがお許しください。

第一の矢:大胆な金融政策(デフレ対策としての量的金融緩和政策、リフレーション)

・ 2%のインフレ目標
・ 無制限の量的緩和
・ 円高の是正と、そのための円流動化
・ 日本銀行法改正

第一の矢はいわゆるリフレ派と呼ばれる人が推進していた政策です。
デフレは、モノやサービスの量に対してお金が少ない。だから刷ればいいんだ。
ということで、中央銀行である日本銀行が既発の国債を買い取る(買いオペ)を通じてマネタリーベースを増やす政策です。

第二の矢:機動的な財政政策(公共事業投資、ケインズ政策)

・ 大規模な公共投資(国土強靱化)
・ 日本銀行の買いオペレーションを通じた建設国債の買い入れ・長期保有、ただし国債そのものは流動化

第二の矢はケインズ派と呼ばれる人が主に推進していた政策(とちょっと違いますが言われています)。
ただ、ケインズ自身もその代表著書が『雇用・利子および貨幣の一般理論』です。

つまり、金融・財政両軸なんです。

ただ、政府支出を増やすこと=財政政策というイメージが日本では強いためケインズ派=公共事業という誤解が生まれました。
財政政策には、厳密には税制が入ります。つまり、景気浮揚のために減税をしたり、景気が過熱しすぎた時には増税で落ち着けたりするのも財政政策です。

第三の矢:民間投資を喚起する成長戦略(イノベーション政策、供給サイドの経済学)

・ 「健康長寿社会」から創造される成長産業
・ 全員参加の成長戦略
・ 世界に勝てる若者
・ 女性が輝く日本

最後はいわゆるサプライサイド経済学と言われるやつです。
経済に興味ない人は、これが一番イメージしやすいでしょうが一番利権化しやすく言葉の定義が曖昧な政策です。

後述しますが、安倍政権は第一、第二の矢は中途半端(第二の矢は逆噴射)する一方で、この第三の矢は変に頑張ってしまいました。

アベノミクス当初の狙い

当初、この3本柱の政策を実行することで、いち早くデフレ脱却をして1998年からはじまった日本の長期停滞に終止符を打つ、というのがアベノミクスの狙いだったのです。

私個人的には、金融政策と財政政策については非常に肯定的でした。
というのも、この2つの政策だけは国と中央銀行にしかできないマクロ政策なんです。民間企業が気合い入れても、国債を買い入れてマネタイズ(貨幣化)できませんし、何兆円、何十兆円という規模の予算を組んだり税制を変えることもできません。そう、まさに、日本の1960年代の高度経済成長はこの2本の矢によって実現されたからです。

一方で、第3の矢でもある供給サイドの経済学は本来インフレ傾向で国内の供給力が需要に追いつかない状況の時に必要な考え方です。つまり、デフレで需要不足の日本は1つ目と2つ目の矢だけで十分というのが私個人の意見です。(安倍総裁(当時)の演説でも、ここには強く違和感を感じました)。

ついでにいえば、あまり、お国に人の生き方やビジネスのやり方を介入されるのはご免被りますというのも私のスタンスです。

だって、景気良くなって人不足になりゃ自然と女性の社会進出は進むでしょうし、供給力は設備投資を通じて自然に改善される問題だからです。ブラック企業も景気が良くなりゃ減っていきます。むしろ、「規制緩和」という旗印を使って甘い汁を吸おうという民間企業の跳梁跋扈につながることのマイナスの方が大きいのです。

これは海外ではレントシーキングと言われて民間の大企業が国家資産を接収したり、利権化していく構造として問題視されています。

はじめの1年は原案通り、それ以降は逆噴射がアベノミクスだった

では、実際、アベノミクスの成果とはどうだったのでしょうか。

良い機会なので名目・実質GDPのグラフを作ってみましたよ。
このとおりです(研究開発費等の基準変更はこのグラフは反映されています)。

日本のGDP推移

名目GDPは物価変動の影響は関係ない名目値のGDPですので、私たちが実際に手取りとして受け取る給料などの体感値に近い数字です。私は商売をやってて、経済の回復を最も変化を体感したのは2013年でした。ただ、統計としての数値上の変化のピークは2015年だったようです。

私も2013年だけ株やりました。
過去20年で金融政策のレジームチェンジが行われた久しぶりの時でしたので、ここは確実とばかりに買ったわけです。おかげさまで、当時、会社まだ大変な時期でしたが、それなりにキャピタルゲイン出して一息つけましたよ(笑)。

でも、私が中小企業経営者としてアベノミクスの恩恵を体感したのはこのときが最後です。
というのは、2014年以降、安倍首相は残念ながらアベノミクスでやると言ったこととどんどん真逆の政策ばかり推し進めたからです。

特にその最大の問題は2014年、2019年と強行された消費税増税。
一方、財政支出は多くの方の印象とは裏腹に削られてきました。

このサマリは元内閣参与の藤井聡氏がロイターに寄稿したこの記事が政策当事者の見解として一番近いのではと思います。

■ 検証アベノミクス:2度の消費増税で財政政策が機能せず=藤井・元内閣参与
https://jp.reuters.com/article/abe-fujii-idJPKBN25M0D0

つまり、アベノミクスを評価するのではなく、アベノミクスで結局頑張ったのは第3の矢だけで第1は中途半端(それでも、過去よりは頑張った)、第2の矢は最初の1年目だけというのが実態だったわけです。

中小企業にとっての”真”アベノミクスの功罪

中小企業者としてこの「真」アベノミクス、つまり、

・ 金融緩和はそこそこ
・ 財政政策は逆噴射
・ 規制緩和だけはガチ

この政策はどのように評価すればよいでしょうか。

GDPは計上基準の変更による嵩上げもあってこの7年で50兆円ほど増えました。
一応、こちらが名目GDP・実質GDPの推移です。

名目GDP、実質GDP、GDPデフレーターの推移

一応は成長してますね。
しかし、海外と比較するとそのショボさが目立ちます。

GDP成長率ランキング
出典:https://note.com/prof_nemuro/n/n7a69f5712690

その最大の理由はアクセルとしての財政政策の逆噴射。
各国と比べて、予算は絞ってしかもGDPへ一番マイナスな消費増税しちゃいました。

これで恩恵を被ったのは結局消費税の影響の少ない輸出企業と第三の矢でおこぼれをもらった特定業界だけではないでしょうか。実際、私も肌感覚では2018年中盤に会社の売上のピークを感じてましたが、後々のGDP推移を見てもそれがピッタリ当てはまります。

こうして考えると、安部総理のアベノミクスの問題は、

・ 第一の矢(財政)は増税と緊縮で真逆の逆噴射
・ 第二の矢(金融)はギリギリ合格点だけどここ数年は国債買い入れ額も少ない
・ 第三の矢だけは特定業界儲けさせるために頑張った

ということで、アベノミクスの評価ではなく言ったこととやったことが違ったことに対しての評価ということになるのではないでしょうか。これは、TPPなど野党時代には参加しないと言っていたのが与党に返り咲いた瞬間参加してしまったりしたことと似ているかもしれませんね。

しいて、良かったこととすれば、「金融政策」「財政政策」といった言葉と「デフレが悪いこと」というイメージをとりあえず、一般の人にも少し定着させたことでしょうか。しかし、一方で、この「財政政策」が逆噴射したことで、アベノミクスは真逆の結果になってしまったことで、ますます、「財政政策」=無駄遣い、だったり、「金融政策」=効果ない、といった誤ったイメージを植え付けてしまった負の貢献も大いにあるといえるでしょう。

今後の政権に期待すること

となると、次の総理が誰になるかはわかりませんが唯一期待すること。
それは、教科書どおりの政策運用をしてもらうことです。

実は、中学校の公民教科書にはこう書かれています。

5分でわかる!財政政策(不景気の時)
https://www.try-it.jp/chapters-3453/lessons-3467/point-2/

財政政策 - 不景気の時(中学公民)

5分で解ける!日本銀行の金融政策に関する問題
https://www.try-it.jp/chapters-3409/lessons-3447/practice-5/

金融政策

家庭教師のトライさんありがとう!
まじ、わかりやすいw

そう。このままやってりゃ、景気良くなってましたよ!
つまり、金融緩和はそのままに、財政政策は減税と政府支出を増やす。

で、第三の矢はお友達の利権をつくるレントシーキングになっちゃうので、やらない。
産業政策は政府がやるんじゃなくて、景気良くなって自然淘汰を通じて行えば良し。
要はデフレ脱却して景気よくすりゃ、自然に良い会社に人は流れますし人手不足で技術革新も起こります。
そうすりゃ、サプライサイドの問題は自然解決します。

ところがどっこい、景気悪い時に生産性向上とかいって企業淘汰をすすめるオッサンを入れようとしてるんですよねぇ・・・。ちょっと心配。

まとめ

誰が次の自民党総裁=首相になるかわかりませんが、当面はこの逆噴射アベノミクス(増税、支出削減=デフレ期待)が続くことになるでしょう。

このコロナ禍ですから、中小企業にとって厳しい状況が続くのは間違いありません。
となると、こうしたマクロ経済面の政策の正常化を期待しつつも、個人個人としてのサバイバルもしっかりやっていく必要がありますね。

私も今まで好き勝手ブログ書いてましたが、本格的にマネタイズも考えたブロガーデビューしましたw

今回もありがとうございました。

大山俊輔