2018 Habit Summit

ベイエリアのUI・UXデザイナーがこぞって参加するハビット・サミットって?

ハビット・サミット(Habit Summit)はサンフランシスコで開催されている習慣化をテーマにしたカンファレンス
 
主催者は、Nir Eyal(ニール・イヤル)さん。日本でもUI・UX関係の仕事をしている人は”Hooked”(邦題『ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』)を読んだこともあるかもしれない。スタンフォードビジネススクールやデザインスクールで教壇をとっていた人で、本場シリコンバレーエリアで働くエンジニアたちの間では、彼の発明した”Hook”モデルは自社ソフトウェアやアプリ開発のための欠かせないフレームワークになっている。

 

そんなニール氏が「習慣」、正確に言うとサミットの副題でもある”Behavioral Design”(行動デザイン)に特化したカンファレンスを2014年からサンフランシスコで開催している。今までのゲストスピーカーには、”The Will Power Instinct”(日本では、邦題『スタンフォードの自分を変える教室』で有名なKelly Mcgonigal (ケリー・マクゴニガル)の双子姉妹でゲームデザイナーとして有名なJane Mcgonigalなど大物が参加している。
 
ケリー・マクゴニガル双子
右がケリー・マクゴニガルさん。左が双子のジェニー。確かに双子だ(笑)

 

サミットはキーノート・スピーチが1日、そして、もう1日がワークショップで主催者のニールがどっぷり授業してくれるというてんこ盛りの内容。そんなこともあって、参加費はスピーチだけで950ドル(10万円)、ワークショップも含めると1700ドル(18万円)と日本のカンファレンスでは考えられないお値段。それでも、ベイエリアで働くデザイナー、エンジニアにとってはこのお値段を払ってでも毎年この時期が待ち遠しいようだ。

 

そんなサミットに一見、IT業界の人間でもなくデザイナーでもない自分が参加することになった。

 

エンジニアでもない自分がハビット・サミットに参加したワケ

もともと、b わたしの英会話という英会話スクールはちょっとユニークでお客さまを英会話を初めて学ぶ女性、しかも、大人女性だけに特化したサービス開発をしている。そして、お客さまの99%はB2C、つまり、自費でそれなりの費用を払って来てくれているモチベーションも高い貴重なお客さまたちだ。

 

そんな自分たちが習慣に興味を持ち始めたのは出席率の改善を本気で取り組んだことがきっかけ。ジムや習い事を運営している会社にとっては出席率が低いほうがいわゆる幽霊会員はありがたいと言われている。だが、当社は全く逆と思っている。

 
確かに短期的には出席率が低ければその分人件費がかからないから利益率は良くなる。
でも、このモデルは事業の長期運営を考えれば間違っている。なぜなら、幽霊会員はいずれやめてしまうからだ。
 
当社はむしろどんどん出席してもらう。
語学にしろ、ダイエットにしろ投入する時間数と結果の相関関係の高いサービスは結局のところお客さまは出席してもらうことが大事。
そのためには習慣構築が大事になってくる。
 

続ける良い習慣ができれば出席率が高くなる。
出席率が高くなれば、上達率が高くなる。
上達率が高くなれば、満足度も高くなる。

 
結果的に長いことスクールにもお金を払ってもらえるしお互いハッピーという考え方だ。
つまり、出席率は超重視しているKPIなのだ。
 
特に新しい習慣を構築するために大事なはじめの21日、そして、2ヶ月を乗り切るためのテクニック集でもある”b 習慣化メソッド”を発表したのが2017年。
 
しかし、ここ10年くらいはスマフォの普及で我々地球人は寝ている時間以外は常にネットワークとつながっている。
結果的に、多くの人が常習性アプリに集中力を取られてしまって全人類が総ADHD化。自分は子供の頃集中力がなくてADHDを疑ったくらいだからいいけど(笑)。語学学習のように一定期間、習慣的に落ち着いて学ぶ時間を確保するビジネスにとってはこの傾向はちょっと厄介な問題。(もちろん、集客上はネットに繋がる時間が長いので良いことも多々あるのだが)
 
そんなわけで、まずは、ちゃんと敵のことを理解しとかなくては、ということで、最近はすっかりテックオタクになってしまった。
 
そして、脳科学やテクノロジーの視点からどのように、良い習慣を構築しつつ誘惑に負けないかをテーマに研究していたときに、ニール氏の著書に出会ったのがきっかけ。

 

bわたしの英会話 習慣化メソッド
 

良い本に出会うとそれが漫画だろうと小説だろうとノンフィクションだろうと著者に感想文を送るのが自分の昔からのクセ。相手が外国人だと当然、英語で感想文を送ってしまった。そうしたら、ニール氏からすぐに返事が来て「ハビット・サミットやるから来て!」。こうなると感想文を送った手前、断りにくい(笑)。4月は当社にとっては決算期で日々の業務にはりついている時期だけど今年だけは、スタッフのみんなに留守を守ってもらって参加してきた。

 

ハビット・サミットで学んだこと

ニールさんと朝食

まずは、サンフランシスコに到着。今回は参加できるかギリギリまでわからなかったので直通便がなくてLA経由。ついた時点ですでに現地時間で夜、クタクタでとりあえず時差ボケにならないように気合で寝る。

 

翌朝、案の定寝坊(笑)。
 

開催地はUCSFのMission Bay Conference Center。自分が泊まってるパウエル駅からそこまで遠くはないので電車で行こうと思ってたけど、こりゃ間に合わん。ということで、人生初のウーバー乗車。

 
ドキドキしたが、運転手さんは山田洋次ファンの『男はつらいよ』を全部もっているおっさんだった。アメリカで何故か男はつらいよの歌を聴かされながら現地到着。一応、初ウーバーだったのでおっちゃんと記念撮影(笑)。

アメリカでウーバー

 

チェックインしたらすぐ近くにニールさんいたので挨拶。
朝食を一緒にしながら、奥さんのジェニー、娘のジャスミン、何故かお爺さん、お婆さんまで紹介された(笑)。ジェニーは裏方でこの会議の準備をすべてしていたそうだ。自分が気になってるアメリカのベンチャー・キャピタリストのChamath Palihapitiyaも奥さんと一緒に仕事してたっけ。当社もそうだけど、これからは夫婦経営最強の時代か。もちろん、夫婦円満であることが必須条件だが(笑)。

 

ニールさんは、そもそもなぜ、英会話スクールの運営をしている自分が自分の著書を手に取ったのか興味あったようだ。とはいってもうちはそれなりの広告費用を毎月Google様やFacebook様に貢いでるし、社内基幹業務やお客様向けのフロントも全部システム化しててITとは切っても切れない関係、そして、そこから習慣化、そして、気づけば行動デザインに興味の対象が移ったことをとうとうと話す。

 

サミットのテーマ

ハビットサミット参加

「人の行動デザインをテクノロジーを通じてどのように解決していくか」がテーマだった。
ちょうど、Facebookのザッカーバーグが公聴会に呼ばれていた時期と重なりテーマとしてもドンピシャ。Facebookは個人情報の話だけでなく、フィードアルゴリズムなど実はこの行動デザインを少し悪い方で使いすぎていることが話題になっていた。

 

行動デザインという視点で言うと、今回参加していた全登壇者の話に共通していたのは“user driven” / “human focused”なデザインがキーワード。特にスマフォの登場によりこの10年で我々の生活スタイルは大きく変わってきている。従来のPC時代には当たり前だった機能ベース(必要な機能をすべて画面に盛り込む)が主体だったが、スマフォ時代には常時インターネットにつながり、様々なプッシュ機能などにより集中力が落ちてしまっている。こうした集中できない時代に生きる我々がちゃんと機能を使いこなせるようになるためには、インターフェースを直感的(行動経済学的にはSystem1に訴える)ものにしないと離脱してしまう。

 

基本、このテーマをどうやって解決していくかについての解決策を様々な登壇者が自社の事例、あるいは、デザイン、ゲーミフィケーションなどといった観点から説明してくれた。

 

サミットの登壇者・参加者

今回参加して思ったけど、参加者の多くはほとんどがシリコンバレー、サンフランシスコで働く人たち。御三家(Google、Apple、Facebook)は言うまでもなく、その他スタートアップで働くエンジニア、デザイナーを主として、それ以外の業界で行動変革・デザインをテーマにしている人々もいた。

 

全体で300名程度の参加だったと思われるが、外国人は自分ともう一人はオーストラリア人だけ。一緒にグループワークしたニューヨークのマーケターさんがしきりに他の参加者から「遠いところからようこそ」と言われていた(笑)。自分が「東京から」といったとき、皆、びっくりしてた(笑)。その他、グループワークや食事会があったが、一緒に学んだのはSpotifyのデザイナーとNetflixのエンジニア、あと、NPOの代表者だったり。

 

日本人のエンジニア、UI・UXデザインをしている人、あるいは習慣関係のテーマを研究している人は多少の英語力に自信があれば参加する価値が必ずある。

 

ハビットサミットの雰囲気

 

ちなみに、登壇していたのは下記の人たち。

主催者のニールはじめ、シリコンバレーでUI・UXかじってる人達からすれば有名な錚々たる顔ぶれだった。すべての登壇者が素晴らしいスピーチをされていたが、自分にとっては、自社事業でもつながりがあると思ったのは下記の登壇者(とテーマ)だった。

 

* Nir EyalーIndistractable: How to Focus In and Tune Out Digital Distraction – 「デジタル中毒時代と如何に集中を取り戻すか」

* Gibson BiddleーNetflixのProduct VP : Customer Obsession -「消費者がはまる仕掛け」

* Jeni FisherーGoogle Play開発責任者: -How Apps Can Shape Your Future Self – 「アプリ開発を通じた人の未来デザイン」

* David LiebーGoogle Photo開発責任者: -Cognitive Overhead, or, Why Your Product Isn’t As Simple As You Think – 「認知不可についてーなぜあなたのプロダクトは自分が思うほどシンプルではないか」

* Kyra Bobinetースタンフォード大学:Neuroscience and Design of Compassion, Trust, and Connection – 「脳神経学を通じた顧客との愛着、信頼、つながりの構築について」

* Kees Oomenー Booking.com開発責任者:Using Consumer Psychology to Boost Customer Motivation – 「消費者心理学を活用した顧客モチベーションのブースト」

* Yu-Kai Chouー”Actionable Gamification”著者:Engaging Onboarding Design – 「あなたの顧客を盛り上げるオンボーディングデザインについて」

* Gina GotthilfーDuolingo社のVP Marketing&Growth:How Habits Grew Duolingo to Over 200 Million Users - 「Duolingoがユーザーの習慣構築を通じて2億ユーザーに至った経緯」

 

サミットに共通するテーマ

 

登壇者によってアプローチは異なるが、全員に共通していたことは下記の3点だった。

 


– 「ビジネスを通じた世界への貢献」

– 「学問(特に脳科学と心理学)とテクノロジー&デザインの合体」

– 「倫理」

 

ということにまとめることができるのではないかと思った。

 

特に3つ目の「倫理」(ethic)はちょうど会議開催ときにまさにFacebookのザッカーバーグが公聴会に呼ばれていたことからもホットなトピックだったと思う。最近日本のメディアにも出てくる”attention economy”(アテンションエコノミー)についての反省がトピックであった。

 

サミットで学んだこと

個別スピーカーの話を書くのは長くなるので学んだこと、としてまとめると、

 

1: 顧客にフォーカスしろ!

これは別に開発、デザインだけでなく会社の商品・サービス開発、ビジネスモデルを作るときにも言えることだと思う。ついつい、作り手は「あんな機能もあるよ」「うちの商品はこんなにすごいよ」ということをアピールした設計をしてしまいがち。

 

英会話スクールでも同じことが言える。

 

「うちの教材はこんなにすごいぞ!」
「講師はこんなすごい経歴だぞ!」

 
といったスペック競争に陥りがちだし、テック系の会社同士の争いだと、
 

「うちは競合にはないこんな機能がある!」
 

といった部分にフォーカスしてしまいがち。

 
そうじゃなくて、「顧客をスタート地点にして設計しろ!」というのが当たり前ながら新鮮だった。個人的には、 スピーカーのNetflixのVP、Gibsonが引用したジェフ・ベゾスの“Focus obsessively on the customer.”=「顧客のことを病的なまでに考えろ。」にすべてが要約されている気がした。

ジェフ・ベゾスの言葉

 

2: 顧客の脳に負荷をかけないように!

これも全登壇者人共通していたテーマだったと思う。
スマフォ時代になって、我々の集中力が劇的に低下しているのはうっすらみんなが気づいていること。パソコン時代なら多少細かい画面やテキストベースのインターフェースでも良かったかもしれないが、今の時代は全てこうした要素は離脱につながる。

認知的負荷

 

開発する側はこうしたことを考える必要がある。
ここでポイントなのは、登壇者の一人、David Liab(Google Photoの開発責任者)が言っていた”Cognitive Simplicity”という概念だ。日本語がないのであえて訳するとしたら、「認知的シンプルさ」とでも言えばいいかも。UI・UXデザインをしている人ならばシンプルに作ることが大事だということはみんな知ってるが、実はそれだけではダメでそこには「認知的」要素が必要ということだった。

 
つまり、一つ一つのアクションに対して脳にどのような認知的負荷があるかを考えながら作る必要があるということ。確かに、最近Google Photoのアプリが使いやすくなったのは彼のデザインの影響かも。悪い例でクラウドで言うとicloudがいまいちな理由を使って説明していた。つまり、シンプルでも自分の行動(例えば手を動かす、ドラッグ、スワイプする)と紐付いてシンプルな結果を可視化させないといけないということだ。確かに、自分もicloud使ってないのは、動作を伴わず全自動で何かよくわからんからだな。

 

3: オンボーディングと成果の可視化は超大事!

これも全登壇者がテーマにしてた。
ここでは、登壇者の一人、Jeni Fisher(Google Play)が特に参考になった。

彼女は、自己啓発につながるアプリ(ヨガ、マインドフルネス、学習、ダイエット)など習慣化が難しいものについて成功事例を幾つか紹介してくれた。特にオンボーディングを失敗してしまうと、使われずいずれ外されてしまう。また、オンボーディングに成功した後、続けていくためにどうするかについては、成果の可視化を話していた。

 

確かにヨガや英会話は成果の可視化が難しい。
こうしたところはゲーミフィケーションをうまく活用したアバターの成長やプログレスダッシュボードの機能が役立つ。

 

4: エンジニア・デザイナーは倫理観を持て!

最後は倫理観について。
結局のところ、ハマる仕掛けのベースにあるのはオペラント条件づけ。

スキナー箱

心理学に出てくるスキナー箱の実験を知っている人は多いだろう。つまるところ行動と報酬の組み合わせを不定率(variable reward)=予測不能にすることで、人はその行動を強化してしまう。これは中脳の腹側被蓋野(VTA)からA10神経が伸びて快楽中枢である側坐核に快楽ホルモンであるドーパミンを照射することで説明できる。人がギャンブルにはまったり、セックス、覚醒剤、喫煙などの中毒になったり、集中力が落ちるのはすべてこの仕業。自分も今までこのドーパミン野郎のせいで、数多くの失敗をしてきた。と、ドーパミンを悪者にしてもしかたない。足りないとパーキンソン病になってしまうしやる気を失ってしまう。何事もバランスが大事。

 

人間も所詮は動物。
この脳の掟には逆らえない。

 

特に24時間オンラインにつながることを可能にしたスマフォの登場によって、これを悪用すれば人を自社アプリの中毒にすることもできてしまう。特にIT企業の多くは広告収入がビジネスモデルなので、どうしても、自社アプリの滞在時間を増やすことが自社の利害と一致するためこれを悪用してしまう。

 

そうしないためには、企業、エンジニア、デザイナーともに倫理観をもって開発に取り組もうという話。良い習慣につなげることができるアプリが増えれば、それは社会を良くしていく。

 

まとめ

今回のサミットの流れはちょうどFacebookの公聴会と重なったことから単に人をハマるようにするためのデザインエンジニアリングではなく、社会をより良くしていくためのアプローチから登壇者の多くが話していることが印象的だった。

 

日本でもコンプガチャなど社会問題化したものの多くは人間のドーパミンサイクルを悪用してしまった事例だが、開発者たちがこうした因果関係を脳科学や心理学など理解した上で行っていたのか、それとも、偶然の産物だったのかは分からない。一つ言えるのは、アメリカでは心理学、脳科学、行動経済学、テクノロジー、デザイン、ビジネス(商学部)など大学の学部なら異なるテーマ間の人、知識の行き来と横断があってこれを合体させたCaptology(Computer as Persuasive Technology)専門の学部まで出来上がっていること。特にfMRIの登場来一気に進んだ脳の解明は、今後もビジネスやテクノロジーの世界に影響を与えていくだろう。

 

日本ではこうしたテーマがすべてバラバラで研究されているのがもったいないなと思った。
ニールさんのプロフィールを見ていると卒業学部のコーナーに”School of Hard Knocks”とか”University of Hard Knocks”と書かれてた。(実際はスタンフォードのビジネススクール卒業)。直訳すれば、「つらい経験学部」みたいな感じ。平たく言うと実社会の厳しい経験から学べよ、ってこと。まさに、プラグマティズム生みの親ジョン・デューイの重視した経験を通じた学びだ。

ジョン・デューイの英語の名言

 
最後にベイエリアの物価の高さはびっくり。
 
とはいっても、20年前に自分がアメリカいたときはアメリカ人が日本に対して言ってたこと。
つまるところは、20年もセルフ経済制裁してデフレで成長を自分で止めてしまった日本に普通に3%とか4%成長してたアメリカが追いつき、追い抜いただけの話。ちゃんと日本ももう一回ガンガン成長モードに戻さないと、そのうち、外国人は買い物にしかこなくなっちまう。
 
日本、頑張らねば!


カテゴリー: 習慣・行動デザイン