大山俊輔です。
 
 
唐突ですが、最近は宇宙がブームです。
 
科学の世界では先日特異点理論で有名なスティーヴン・ホーキング博士が亡くなられて再び宇宙に注目が集まりました。また、ベンチャー界隈では、イーロン・マスクがスペースXで音頭をとりながら宇宙開発に邁進するし、日本でもホリエモンはじめ宇宙ベンチャーが出てきている。
 
自分も宇宙ネタは好きだ。
子供の頃はガンダムにはまったし、筋トレのモデルの一人は映画『エイリアン2』で活躍した宇宙海兵隊の上等兵、バスクエスだ。女性だが三角筋がやばい(笑)。

エイリアン2のバスケス
(実はこの女優さん(ジェニット・ゴールドスタイン)、ターミネーター2では主人公ジョンの養母役で出ている)
 

それはさておき、いざ、自分の日々の生活やビジネスに直結しているのは同じ宇宙(Space)でもInner Space(心=脳)だ。宇宙の謎を解明するのが人類のひとつのフロンティアとすれば、間違いなく、脳のフロンティアの解明は火星を植民地にするプロジェクトと同じかそれ以上のくらいの魅力と謎をもっている。

 
脳の研究が本格化したのはこの20年。それはfMRIの登場と時を同じくする。
これまでの人類史で分かってきたこと以上のことがわずか数十年で解明されてきているのだ。

 
つまり、今を生きる我々はとってもラッキー。うまくいけば、この飛躍的な脳の機能の解明が生きているうちに完結するかもしれない。そうすれば、意識や記憶などかつては肉体の消滅(=死亡)と共に消え去るはずだったものがテクノロジーを通じて生き続ける、つまり、精神においては不死が実現するかもしれないのだ。
 
宇宙征服も楽しそうだが、こちらもこちらで楽しそうじゃないだろうか?

 

bの事業を通じて興味を持ちはじめた脳

英会話スクールの事業をはじめて自分が興味を持ったことは、先日のエントリでも紹介したこの2つのポイントだ。
https://shunsukeoyama.com/habit-design-blog/2018/05/why-neuroscience/

① 人は何故新しいことに挑戦するのを躊躇うのか
② 何故、始めたことを続けるのがかくも難しいのか

 
①については英会話スクールに「通う」という習慣構築がお客さまにとって重要である以上、問題解決は必須であった。そして、②についても同じ。続けないと上達しないのだからなんとかしなくてはいけない。KPIとして見るならば①は営業成約率、②は顧客継続率向上に伴うLTVの改善、となる。どちらもビジネス上の要請からスタートしているが、もちろん、これはお客さまに常に興味を持ち続けた結果だ。

 
そして、決してお客さまだけの問題ではなく自分自身にとっても重要なテーマだった。自分の過去の行動を振り返っても同じ問題で今まで何度も物事を先送りしてきたし、続かずに断念してきた。時には、どうでもよい目先の快楽や報酬に振り回されてとんでもない失敗もしてきた。

 
その度にお客様も自分も自己嫌悪に陥る。

 

ああ、なんて自分はダメなんだろう。
自分って、決められないやつなんだ。
なんて自分はだらしないやつなんだ。

 
って。
 

そして、前回のエントリにまとめたが、巡り巡った結果、「脳」の研究に行き着いた。

 
脳は人の体重に占める割合はわずか2%程度(1400gくらい)。
しかしながら、人間が消費するエネルギーの中で脳が占める割合は20%以上。そして、遺伝子の80%は脳に関係していてその脳の中には1000億以上のニューロン細胞がある。

 
人類の歴史700万年の中で脳は進化し、我々の近代文明はまさにこの脳が生み出したといえる。一方で、はじめられない自分、続けられない自分、目先の誘惑に振り回される自分、といった古来からの人類の悩みの多くも脳の進化の過程で生存上の理由でビルトインされた機能由来であることがほとんどだ。

 

脳研究の歴史

MRIの写真

 
歴史を振り返ってみるととてもおもしろいことがわかる。
実は、脳科学がここまで加速度的に進歩したのはわずか20年。これはfMRIの登場とほぼ時期を同じくしている。この20年でわかったことはその前の数百年かかって研究されてきたことより遥かに多くのことがわかっている。
 

以前より顕微鏡などにより脳にはニューロンと呼ばれる細胞があることは分かっていた。ただし、脳の機能はこれら1000億のニューロン細胞とその間にあるシナプス、そして、その間を通る神経伝達物質のやり取りにより無限のバリエーションがある。fMRIや脳スキャンの登場はこうした従来の研究の速度を飛躍的に加速させている。

 
今日はもう少し大雑把、そして、ざっくりと話してみたい。

心は内臓にある?

 
かつて人の心は内蔵にあると考えられていた
今でこそ、心は脳とつながりがあることは脳に興味のない人でもわかっていることだが、実に近代に至るまでそうではなかった。
 
人類がチンパンジーと分岐したのが600〜700万年前。
その後、我々の直接の祖先であるホモ・サピエンスが登場したのが20〜30万年前。この頃までには我々人類は、他の哺乳類、霊長類と同じように家族を持っていた。そして、集落をつくりはじめるようになった。更には、7万年前には認知革命により言語が登場する。こうして、農業の誕生とほぼ時を同じくして人間の大規模な集住がはじまる。

 
それ以来、人は対人関係に悩み、苦しんで生きてきた。自分の事業の悩みも9割は人関係(笑)。心の活動がどこから生まれるのかは、ずっと人類の興味の対象だったのだ。

 
しかし、かつて、心は内臓に所在するという前提であったように思われる。
いくつかの例をあげてみよう。

 

古代エジプト
ピラミッドなどの土木建築や天文学であれ程の素晴らしい成果をあげていたが、脳については重視していなかった。古代エジプト人にとって、心は子宮や心臓にあるとかんがえていた。その証拠にミイラにする時には、脳は不要の臓器として捨てていた。

 
古代アッシリア
アッシリア人は心は肝臓にあると考えていた。
 

古代ギリシャ
アリストテレス
プラトンの弟子でもあり、哲学から自然哲学にまで大きな影響を与えたアリストテレスは、魂の所在は脳ではなく心臓と考えた。脳は循環器系を冷却する場所と考えていた。ただ、古代ギリシャ人をかばうとすると、アリストテレスより前に生まれたヒポクラテスは脳が思考に関わっているという仮説を立てていたようだ。

 
どうやら心を知るには脳が大事!ということが確信に至ったのはルネサンス期。その鏑矢となったのは、「我思う故に我あり」の言葉で有名なルネ・デカルト。ルネサンス期には人体の解剖も行われて人の体を機械として見る様になってきたようだ。

 
この頃から起きた3つの大きな出来事を紹介したい。

 

第1の革命ー顕微鏡の発明

脳科学にとってもっとも大きな発明は顕微鏡だと言われている。
そりゃそうだ。顕微鏡がなければ細胞を見ることができない。
 

光学機器といえばそのもっとも実用的な発明品はメガネ。
実は日本にも既に戦国時代には献上されている。ちなみに、日本ではじめてメガネを手にしたのは戦国大名の大内義隆。フランシスコ・ザビエルから献上されたらしい。信長の野望のゲームでは、開始後早々に部下の陶晴賢に謀反を起こされて死んじゃう大名だ(笑)。ちなみにゲームでは面倒だったからか、大内義隆は登場しなくて謀反後、陶晴賢に擁立される息子しか出ていないマイナーキャラ。
陶晴賢-信長の野望
こちらは謀反を起こす陶晴賢さん。

 
戦国時代末期となる1590年にオランダのメガネ屋、ヤンセン父子が光学顕微鏡を発明したと言われている。
日本で言うと、ちょうど秀吉が小田原攻めをしている頃だ。議論が別れるがハンス・リッペルハイともヤンセンの息子(サハリアス・ヤンセン)が同じくメガネの技術を応用して望遠鏡を発明した。

 
望遠鏡により天文学が飛躍的に発達した。
月にクレーターがあることや、太陽の黒点などもこの時期にわかった。
ガリレオやケプラーが活躍したのもこの頃。

 
いっぽう、顕微鏡により細胞の存在が発見されると脳科学は徐々に進むようになった。
 
脳細胞に「ニューロン」という名が与えられたのは1881年ということで、想像以上に最近のことだ。ニューロンについての研究でスペインの組織学者ラモン・イ・カハールがノーベル医学生理学賞を受賞したのが1906年。まだ、100年前の話だと考えるといかに最近まで脳についての理解が薄かったかがわかる。
 
ラモン・イ・カハール
スペインでは切手にもなったようだ。

 
ちなみに、当時は顕微鏡と言っても光学顕微鏡の時代。カハールと同時にノーベル賞を受賞したのは、イタリアのカミッロ・ゴルジ。彼はカハールとは全く逆の立場の説で受賞したが、当時、電子顕微鏡のない時代にはニューロンが非連続単位の細胞であることまで確認することができなかった。ということで、どちらの説が正しいかの実証が当時の科学力では解明できなかったので両名とも受賞したのだ。
 

第2の革命ー人類史における偶然の事故

上記は神経細胞からみたお話。
もう一つが、偶然の事故からの発見。
 

多くの人類の偉大な発明は偶然の事故から起きているが、脳の研究もその一つ。もちろん、その事故に遭われた方は不幸以外なにものでもないが。
 

有名なのは、フィネアス・ゲージの事例(1848年)だ。
 
鉄道建築技術者だった彼は、鉄道工事中に事故に遭う。彼の脳はこの事故で鉄棒が脳を突き抜けてしまった。彼は、脳の前頭葉に当たる部分を著しく損傷したが、驚くことに死ぬことはなかった。そのかわりに、彼の人格は全く異なるものとなってしまったのだ。こうして、脳の特定の部位が人の人格形成に大きな影響を与えていることが示唆された。
 
フィネアス・ゲージ

 
似たようなことが、ブローカ野でも起こった。
たまたま失語症の研究をしていたフランスの外科医ブローカは、1861年、自身の患者を通じて現在、ブローカ野と呼ばれる部分を損傷した患者は会話ができない(ブローカ失語症)ことを発見した。その後、ドイツの神経学者ウェルニッケは、ウェルニッケ野を損傷した患者は言葉を理解できないことを発見した。このあたりは、語学関係の仕事をしているととても興味をそそる内容だ。
 
また、こうした偶然の事故や損傷ではなく、意図的に脳の特定の部位を除去することで判明したこともある。
 
1953年の話だがHM(ヘンリー・モレゾン)はてんかん患者だった。彼は治療のため海馬を除去する手術を受けたのだが、それにより極度の健忘症に陥ってしまった。彼は手術後、新しい出来事や知識を獲得することができなくなってしまった。驚くことに過去のことは覚えてはいるが。こうして、海馬と記憶との関係がわかるようになった。

 
HMはじめこうした人たちにとっては不幸な話であるが、当時はこうした人的な犠牲により少しずつ脳の領域とその機能の関係が明らかになってきた。失われた領域とそれにより失われた機能を通じて逆算していたってことだ。うーん、なんというローテクな作業。
 

第3の革命ーfMRIの登場

そして、最後にfMRIの登場だ。MRIというと映画『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のワンシーンを思い出す。
 
この作品では、もう一つの未来軸があり、従来の主人公でもあるジョン・コナーはスカイネットにより、新型ターミネーターT-3000に改造されている。ほぼ、無敵チートの彼が唯一弱いのがMRI。なぜなら彼の体は分子レベルで分解する液体金属だから。逆にMRIは人間にとっては無害。
 
ターミネーターに出てくるMRIの場面
こんな感じでジョン・コナー、ピンチ

 
MRIから発せられる電磁波は、ターミネーターにとっては致命傷だが、人間の体にダメージを与えることなく人体組織を通り抜ける。fMRIはこれをつかって、電磁波を頭の中を貫通させる。何がすごいって、X線、CTスキャナーのように放射能を体に浴びせることもないので基本無害。
 
fMRIによって人間の感情の動きなど思考の動きをスポットで表示できるようになったこと。
 
MRIの映像
 
感覚や感情を抱いているときの脳内の働きををこうしてfMRIを通じて画像化できるようになったことが大きい。
 
たとえば、従来であれば哲学者、心理学者や行動経済学者が説明していた様々な概念。
 
あるいは、宗教的活動ー例えば仏教の瞑想ーの効果などは、スピリチュアルなものとして人によってはあまり好きではない人もいたかもしれないが、現在では瞑想が脳の自己コントロールにとって重要な前頭前野の部分を活性化させることが、こうした画像を通じて証明されている
 

行動デザインとも深いテーマなので別の機会に掘り下げてまとめるつもりだが中毒や禁断症状というのもその一つ。
 
人がギャンブル、ドラッグ、タバコ、そして、最近ではスマホにハマってしまう中毒症状はかつてはオペラント条件付けとして心理学者(B.F.スキナー)によって説明がなされていた。現在では、腹側被蓋野(VTA)からA10神経が伸びて快楽中枢である側坐核に快楽ホルモンであるドーパミンを照射する一連の出来事を映像化することができている。
 
腹側被蓋野とドーパミン
この写真を見るたびに人間も動物だなーと思ってムカつきます(笑)

 
こうした科学的な説明と相性が良いのが実は今のスマホ社会。日々の私達の気づかないうちに行っている行動 ー 例えば、Facebookフィードをスワイプする、メールの受信ボックスをクリックする ーという行動を行っている時に脳で起きていることを正確にトレースすることができるのだ。
 
そして、先日参加してきたHabit Summit 2018ではこうした研究をUX・UIデザインなどにどのように反映し、実際のビジネスに活かしていくかについての話がでてきていた。
 
Habit Summit 2018のサマリはこちら
https://shunsukeoyama.com/habit-design-blog/2018/04/habit-summit-2018-report/
 
行動デザインをするためには、従来の心理学や行動経済学のみでなく脳科学の研究が必要っていうのもこうしたことが理由じゃないかなと思う今日このごろです。